更科氏は、「共生学」の狙いを「知識と経験の往還」だと言います。
前述の通り、もともと自由学園には生活即教育という理念があり、創立以来、実践を通して生きる力を育ててきました。例えば、今でも寮の朝ごはんや、全員分の昼食(家庭科の時間を使い日替わりで実施)は、生徒たちが持ち回りで作りますが、例えば、その材料となる野菜を作るための土作りから実践を通して、環境との共生についても学べます。このように、机上の勉強で終わりではなく、経験を経て深めていくのです。

また、「共生学」の一環として、インターンプログラム「飛び級社会人」も実施しています。高等部2・3年生の生徒たちが必修科目として、週1回、約4カ月間にわたって企業や団体で働きます。
この取り組みは、単なる就職や進学のためのインターンシップではなく、実社会で問題解決に取り組む経験を通じて「社会」の解像度を高め、多様な、そして素敵な大人に多く出会うことで、これからの生き方を問い直し、新しい自分を発見してほしいという思いが込められています。
生徒の「やりたい!」という気持ちをとことん応援する
在校生にも話を聞きました。共に高等部2年の綱島遼さんと笠原理央さんです。

(写真:中曽根氏撮影)
綱島さんは、中学受験を経て入学しています。
最初に環境問題に関心を持ったのは、中学の家庭科の時間でした。それから探求のテーマを環境にしました。

さらに共生学の時間で、 環境問題について学べるカフェの経営に取り組み、コーヒーの入れ方やベジタリアンについて学んでいくうちに、コーヒー栽培が置かれている問題に気づき、また環境に優しい大豆ミート作りにも取り組みました。
そんな体験からさらに農業に興味が広がり、「リジェネラティブ・オーガニック農法(RO農法)」に取り組むようになりました。RO農法とは、オーガニック(農薬・化学肥料未使用)、不耕起栽培により健康な土壌の構築を促進することができる農法です。自由学園は、キャンパス内以外にも畑があり、那須農場と南沢キャンパスでRO農法を実践しており、そこにも出かけていきます。
飛び級社会人では青梅の有機栽培農業を行う団体に出向き、栽培から販売までの農業経営を学んできました。将来は、環境にやさしい農業に取り組みたいと考えていて、そのために、まず大学で農業について専門的に学びたいと、現在は国立東京農工大学への進学を目指して勉強も頑張っています。
次に、笠原さんは岡山県出身。いったんは地元の公立高校に進むことを考えましたが、大学進学のための勉強をすることになる既存の路線に疑問を持ち、自由学園の高等部に入学。現在は寮生活をしています。
弟の出産に立ち会った経験から、小さい頃から助産師になりたいと考えていて、探求のテーマはお産にしました。

1年生のときには養護教諭の出産体験を聞きとりレポートにまとめ、赤ちゃんの人形を使ったワークショップ形式で発表しました。2年生では、生理用品を集めて展示するワークショップを行いました。
それを見た更科先生から、生理用品を女子トイレに置く取り組みをしてみないかと提案され、プロジェクト化しました。めちゃ大変でしたが、周りの友人も応援してくれて頑張りました。
今は中学時代から関心を持っていた包括的性教育について、多くの人に広く知ってほしいと活動をしています。