社会の枠を自分自身で変えていく力を持つ人が大切
その中でも、2024年から共学化した中等部・高等部の教育について、卒業生でもある更科幸一学園長(以下、更科氏)と在校生に話を聞きました。
「本学園の使命として、今の教育課題を超えていくオピニオンでありたい」という更科氏。
その課題とは、一つに羽仁夫妻が疑問を持った100年以上前の教育と今の学校教育を比べたとき、手っ取り早くやり方や正解を教える教育、テストで点数を取るための教育がいまだに行われている現状があること。そのような教育が児童・生徒にも浸透した結果、自分で考えて行動する力が育たず、大人に隷従するマインドが育ってしまいかねないということ。
21世紀に入り、AIの進化に代表される社会の変化は誰の目にも明らかであり、しかも地球環境は危機的状況にある中で、教育だけが20世紀の価値観のままでいいのかという疑問を持つ人は多いのではないでしょうか。
更科氏は、「既存の価値観に隷従するのではなく、どのように生きていくのかを自ら考えること、そして自分の命を輝かせるのはもちろんのこと、他者との関係の中で環境にも人にも優しい社会を創造できる人になってほしい。そのための種まきができる学校でありたい」と言います。
共学化もその流れの中にあります。昨今、経営的観点から校名を変更して共学化する私学が多い中、自由学園では「共学」ではなく「共生共学」とうたっています。その意味は、男女を一緒にするというものではなくて、もっと広い意味での共生の一部として共学があるという考えから。人種、障害のあるなし、性別、年齢、そういったさまざまなものを超えた共生共学をしていきたいという思いが込められているのです。
人と人との共生、人と自然との共生、キリスト教主義の学校として神様との共生を大切にし、そのうえで、大きな意味での平和を実現する人が育つ場が、自由学園なのです。
学びの好循環が生まれる独自のプログラム
そのような人を育てるために、具体的にどのような教育が行われているのでしょうか。
現在、中等部・高等部で行われている教育の中で、中核となるプログラムが「探求」と「共生学」そして「自治」です。今回は特に「探求」と「共生学」について聞きました。
まず、学習指導要領では「探究」の漢字が用いられていますが、自由学園では、その問いが生涯を通じた「真理の探求」「生きる意味の探求」につながることを願い、科目名として「探求」を用いています。
毎週土曜日3時間が「探求」の時間に当てられ、生徒は、自分が選んだテーマに沿って自己探求をしますが、その内容は、必ずほかの生徒、教員、外部の専門家と共有し、幅広い意見を得るリフレクションを行います。
なぜなら、一般に探究は自らの意思で突き詰めるため、自己満足で終わりがちな面がありますが、他者と共有することで、さらなる広がりが生まれてくるからです。これはまさに探究のプロセスです。
後に現役の生徒の声を紹介しますが、自分の興味関心から出発し、主体的・協働的に学び尽くす中で、自分の道を見つけていくのです。

自由学園の卒業生の一人に、昨年日本人初の学生アカデミー賞を受賞したCG映像作家 金森慧氏がいます。金森氏は高校卒業後デジタルハリウッド大学に進学して本格的にCG映像制作に取り組み、この快挙を成し遂げるのですが、実は高校の探求の時間にすでに3Dの映像制作に取り組んでいました(以下は金森氏の受賞作品の一部)。
こんな快挙を成し遂げた金森氏の原点となる高校時代のエピソードとして、空飛ぶ体育館という初めてのCG作品作りで、上空からの景色を撮るために高所作業車(クレーン車)が必要になり、それを学校が用意したそうです。
金森氏の受賞作品を見ていると、そんな環境で過ごした時間が今の金森氏の活躍の土台となっていることがわかります。ぜひ見てください。
考える力と動く力を連携して高める共生学
「共生学」は、創立100周年を迎えたのを機に、オリジナルの必修授業として開始しました。
共生学の目的は、社会課題を見つけ、自分たちが幸せに生きられる社会には何が必要かを見つけ、最終的に、授業で学んだことを踏まえて、具体的に社会課題にどのように向き合い、解決するかを考え実践すること。自由学園の教育の根幹を成す大事な時間です。
「平和」「人権」「環境」という3つの大きなテーマの中で、教員たちは教科の枠を超えて自身の得意な分野・ジャンルから自由にさまざまな講座を週2時間開設し、生徒たちはその中から選んで受講します。授業の進め方は、生徒が主体的に学べるように双方向型のスタイルをとっているそうです。