NHK朝ドラ「まれ」にイラッとする人の目線 その姿勢は公共放送に相応しいのか

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「あまちゃん」をまねたところで土台は無理な話。いつまでも「あまちゃん」の幻を追っていてもロクなことはない。「あまちゃん」の「じぇじぇじぇ」に対抗し、やたら「まんで」を盛り込み、ここにきて「しっぱいおっぱい世界一」を押しまくっているが、一向に流行る気配なし。そんな小手先を真似ても視聴者にはバレバレだ。

それよりも女性の一生を「地道にコツコツ」見せるのが朝ドラ本来のあるべき姿のはず。ウケばかりを狙わないで、まずは本筋をきちんと描くこと。柱がちゃんと通っていないから、ストーリーも人物もブレブレになるのだ。いかにも伏線のように見せかけておきながら、その後、そのエピソードは放置したままで、回収されずじまい。なかったようにされてしまう。

ストーリーがとっちらかっていて、毎日、見ているのに、あの話、どうなった? と疑問だらけ。その「?」の数だけ視聴者をイラッとさせるのだ。そもそも、まれが能登に来てから20年は経過しているはずだが、まれをはじめ、出演者が全員、歳を取らないのも不思議だ。

朝ドラはヒロインの注目度が高いゆえに…

ヒロイン・希(まれ)を演じた土屋太鳳は、第90作「花子とアン」でヒロインはな(のちの村岡花子)の妹・ももを好演しており、彼女が「まれ」のヒロインに決まったと発表された時点では、誰もが彼女のヒロイン昇格を喜び、むしろ、応援しようと思っていたはず。貧しい農家の娘役なので、薄汚れた顔にボロボロの着物。北海道に嫁ぐも悲惨な体験をし出戻ってくる幸薄いももを健気に演じた土屋は、当時、ヒロインの吉高由里子以上に人気があった。

それが今ではどうか。坊主憎けりゃ……ではないが、不評ドラマの煽りを受け、視聴者の怒りはヒロインまれにまで及び、その演技、仕草、はたまた衣装に至るまで攻撃の対象となってしまっている。

「ゲゲゲの女房」以降、朝ドラ人気は上昇傾向にあり、「カーネーション」「あまちゃん」というヒット作品にも恵まれた。唯一、視聴者の心を逆撫でし、日本国民を朝から鬱気分にさせたのが「純と愛」(脚本・遊川和彦)で、そのヒロインを演じた夏菜などは当時、激しくバッシングされ、いまだに浮上しない。

夏菜はこの夏ドラマ「ホテルコンシェルジュ」(TBS)に出演していたが、ヒロインどころか三番手四番手の役どころだった。朝ドラヒロインのあまりの扱いに驚く。夏菜に罪はない。「朝ドラの概念をぶち壊す」と息巻いていた脚本家の作品のヒロイン役に選ばれたのが不運だったというしかない。とはいえ、2012年の放送から3年、いまだその尾を引いていることが、朝ドラの朝ドラたるゆえんなのだ。

そしてある意味、その「純と愛」を凌駕する「まれ」。タチが悪いのは、「純と愛」が自覚的に朝ドラを解体した作品なのに対して、「まれ」は無自覚に、いや、むしろその逆で、視聴者に受けると思ってやっているふしが見られるところにある。この“ずれ”が実は問題なのだ。

脚本(篠崎絵里子)が悪いのか、演出が悪いのか。戦犯を探すのは本意ではない。ただ、1日の始まりに相応しい清々しい朝ドラを見たいだけなのだ。毎日、地道にコツコツ見ている視聴者の神経を逆撫でするようなドラマがこれ以上、作られてはたまらない。

現在は朝ドラの視聴習慣ができているので、作品の良しあしに限らず見られているが、1日15分×6日×26週=2340分を無駄にしたと視聴者に気づかれたが最後、朝ドラ離れは一気に加速する。

「まれ」に欠けているのは、まれの信条だったはずの「地道にコツコツ」だというのは皮肉なものだ。朝ドラ制作者にこそ「地道にコツコツ」を肝に銘じてもらいたいものだ。ともあれ、残りあと1週間。終わりよければすべてよし、となるかどうか。見届けたい。

桧山 珠美 フリーライター

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ひやま たまみ / Hiyama Tamami

フリーライター。月刊GALAC「今月のダラクシー賞」、日刊ゲンダイ「これだけは言わせてくれ」、読売新聞「アンテナ」などでテレビコラムを連載。

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