それから程なくして、ニューミュージックというジャンルを切り開いた荒井由実(後の松任谷由実)、中島みゆきなど女性シンガーの時代が到来する。竹内まりやまで続く新規路線だ。
以前、ラジオ番組で聞いた松任谷由実のインタビューで印象深かったのは、デビュー当時、彼女は「ブルジョア的」だと楽曲(主に詞の内容のことか)を非難されたと語っていたこと。
では、ブルジョア的でない同時代のフォーク・ソングとは? 間違いなくそれは、昭和48(1973)年の『神田川』(南こうせつとかぐや姫)に代表される、四畳半フォークということになるだろう。
四畳半どころか、三畳一間の下宿で銭湯通いする同棲カップルの日常は、やはりどうしようもなく「貧乏」くさい。
これに対して、荒井由実時代のユーミンの世界は確かにブルジョア的だった。
貧乏とブルジョアが同居した時代
『神田川』から2年後の昭和50(1975)年にリリースされた、荒井由実(当時)の『ルージュの伝言』。後にアニメ映画『魔女の宅急便』の主題歌になった。その歌詞で語り手は、浮気した恋人への見せしめにバスルームにルージュの伝言を残し、彼氏の母親の元に出向く。
翌昭和51(1976)年の『中央フリーウェイ』では、黄昏時に調布基地を越え、左右に競馬場とビール工場を眺めながら、彼氏の車で家に送ってもらうのだ。
あえて言うと、この貧乏くささとブルジョア的なおしゃれ感覚が同時代的であり得たのが、昭和戦後後期、1970年代の時代的な特徴だった。
ではこの時代、ブルジョア的でもなく、貧乏くさくもない楽曲はなかったのか。
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