社外の知恵が生むJR東「驚きビジネス」誕生の裏側 自社では思い浮かばないアイデアが続々登場
提案は採択され、JR東日本との協業により釜石線にヘラルボニー所属アーティストのアートをラッピングした列車が走ったほか、高輪ゲートウェイ駅の工事現場の仮囲いにはこれらのアートが描かれ、これらのアートを活用した商品がJR東日本の通販サイトで販売されている。
同社の取り組みはSDGs(持続的な開発目標)経営で日本に先行する欧州でも高く評価されており、2024年9月にはパリに進出した。
地方振興事業を手掛ける「さとゆめ」はJRの駅舎を「ホテルのフロント」として活用、青梅線沿線に点在する古民家の空き家をホテル客室に改装し、沿線全体をホテルに見立てる「沿線まるごとホテル」の実証実験を2021年2〜4月に行あった。その後、同年11月にJR東日本と共同出資の「沿線まるごと株式会社」を設立。現在も星空観測や地元の醸造所訪問などさまざまなツアーを行っている。
約50社に出資、6社が上場
JR東日本スタートアップは約50社に出資している。同社の担当者によれば「1社あたりの出資額は数百万円から数億円の範囲」。出資企業のうち、業務用鮮魚のネット販売を行う「フーディソン」やスキマバイトサービスを提供する「タイミー」など計6社が株式上場した。それらの株式は上場時に売却して、売却で得た資金はほかのスタートアップ企業への出資に充てているという。
一般的なベンチャーキャピタルはベンチャー企業に出資して株式を取得し、将来その企業が上場した際に株式を売却してキャピタルゲインを得ることが主目的であり、上場しそうな会社を選んで出資する。一方、JR東日本スタートアップは出資先の株式上場も念頭には置いているものの、出資の判断を左右するのはあくまでJR東日本グループのリソースを活用して新たなビジネスやサービスを創造できるかどうか。その点が一般的なベンチャーキャピタルとの違いである。
「当社は社員総出でスタートアップ企業の発掘に当たっています」と同社の担当者が話す。スタートアッププログラムへの応募を待つだけでなく、他社から紹介を得たり、イベントなどで声がけしたりすることもある。
これはという企業に出会い、選考を通過すれば、その後は担当企業と二人三脚でJR東日本との協業に向け動き出す。実証実験では駅や列車などJR東日本のリソースを使うため、JR東日本の各部署とのコミュニケーションも不可欠だ。担当企業は社員1人あたり10社程度になるといい、JR東日本とこれらの担当企業を行ったり来たりする毎日だという。
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