手術に向けての準備は前々日から始まった。10時に入院すると、この日は輸血が2本待っていた。そして手術前最後の食事を味わう。ランチはサーモンフライ、夜は肉豆腐。心おきなく食べきった。
手術前日は、経口腸管洗浄剤を渡された。水を飲んだ後、1リットルほどを飲む。強烈な下剤である。まずくてなかなか飲めない。ゆっくり、ゆっくりと飲み込んでいく。
午後になると、麻酔科の医師による麻酔内容の詳しい説明、口腔科医師による手術前の口腔ケアの説明、集中治療室看護師による説明など入念な情報提供が行われた。さらに「予期しない事態の発生について」「輸血を受けられる方に」「身体拘束について」などの書類が手渡された。
“予期しない事態”への不安も
「予期しない」には、こんな記述があった。
<患者さんの治療経過中には、事前には予期できない、あるいは予期することが極めて困難な症状が発生したり、病状の変化がみられることが、まれではありますが起こり得ます>
<患者さんの身体状況に直接の影響を与える医療行為を行った際には、身体が予測のつかない反応を示すことがあります。これは、人間の身体の複雑さや一人一人の身体状況が異なることが原因と考えられ、これこそが医療の持つ不確実性の大きな要因であるといえます>
手術前に「不確実性」への言及を目にするとは。それまで楽観的だったのが一転して、一抹の不安が脳裏をかすめる。
「全身麻酔だしな。そのまま意識が戻らないことだってあり得るよな」
「膀胱を摘出する際に直腸を傷つけてしまう可能性だってあるよな」
考え出したらきりがない。
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