貨物列車の「車軸折損」、本当の原因は何なのか? 不正追及の傍らで忘れ去られている技術の本質
当初、この不正行為はこの作業を実施するJR貨物の車両所のうち3カ所で認められたと報じられ、国交省は全国の鉄道事業者に対して緊急点検を指示した。その結果、9月30日に国交省が公表した速報によれば、不適切な事案が確認された事業者は91、そのうち改ざんは50。調査対象の事業者156のうち約6割で不適切な事案があったという結果である。しかし、車軸折損との因果関係には触れていない。
この一連の発表に接して筆者は、圧入力の基準値超過と車軸折損に因果関係があるのかという疑問を抱いた。以下に詳述するが、圧入力が下回って車軸が折れることはあるが、上回って折れることは考えにくい。もちろん、不正行為が許されないのは論を待たないが、その因果関係を明らかにしない限り再発防止にはつながらない。筆者は鉄道車両に関わる技術者として、その観点から執筆させていただく。
なお、一般読者にご理解いただけるよう、専門用語はわかりやすい表現に置き換えた部分があるので、学術的な用語の定義とは一致しない部分があることはご容赦いただきたい。
輪軸の構造と組立作業
鉄道車両も自動車も左右に車輪を有するが、車輪の役割と構造は異なる。重量を支える役割は同じであるが、鉄道車両の車輪は地上のレールに沿って車両を誘導する自己操舵機能を持つ。その構造は、自動車の車輪が左右独立して異なる回転速度を許容するのに対し、鉄道車両の車輪は図に示すように車軸で左右固定され、踏面(とうめん)と呼ぶレールに接する面がわずかに傾斜しており、左右レールの中心へ車両を案内する。
左右の車輪を車軸に嵌め込んだものを輪軸と呼び、1対(つい)と数える。車両の種類にもよるが、車輪中央の穴の内径は概ね150~200mm程度で、その内径は嵌め込む車軸の外径より0.2~0.3mm程度小さくして締め代を設けておく。そして油圧を使ったプレス機により、車輪を車軸に強い力(30~100トン程度)で圧入する。締め代や圧入力については、日本産業規格「JIS-E 4504鉄道車両用輪軸-品質要求」で規定されている。
文章だけではイメージが湧かないと思うが、ユーチューブなどの動画サイトで「車輪圧入作業」と検索すれば、いくつかの動画がヒットする。中には西武鉄道の武蔵丘車両検修場における車輪圧入作業の一般公開を撮影したものもあり、作業員による音声の解説があるので手順がよくわかるとともに、圧入力の変化を示すチャートまで映っているので、今回問題となっている圧入力の管理について理解しやすい。
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