北陸新幹線開業で露呈した上越の「悩み」 開業で新潟県分裂の危機も?

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上越妙高駅の立地は、長野市と上越市のつながりにも微妙な影を落としている。国土交通省が2010年に行った直近の全国幹線旅客純流動調査(生活圏単位)によると、長野地域から上越地域には年間145万4千人の住民が、上越地域から長野地域には61万5千人が旅行している。しかし、移動手段はもっぱら乗用車で、鉄道利用は統計に表れてこない。長野―上越妙高間の大きな時間短縮は、新たな鉄道需要を生む可能性があるとはいえ、上越妙高駅からの二次交通環境が厳しく、長野地域からみれば新幹線で「信州の海」が近くなったとは言い難い。

一方、すでに「かがやき」で長野と直結する富山は、以前紹介したように、長野地域からの観光客取り込みに動いている。「信・越」のつながりに北陸が加わるのか、それとも上越地域の頭越しに「信・北」のつながりが強まるのか、注視していく必要がある。

「人口減少社会の貴重なインフラ」

金沢や富山に比べると課題の多い開業となったが、地元は冷静だ。時間短縮効果が限定的であることも、地区によって効果の及び方が異なることも織り込み済み。そのうえで、上越市役所の歴代の担当者たちは「移動の選択肢の増加」をはじめ、「生活の質の向上」という視点を重視してきた。

また、上越市周辺には妙高高原、佐渡といった著名な観光地が多い事情もあり、上越市単独での利害には必ずしもこだわらず、妙高、柏崎、十日町、佐渡の各市とともに「越五の国」と名付けた連携プロジェクトを前面に打ち出している。広域観光のアピールを通じて、上越地方のハブとして上越妙高駅の利用を促す戦略という。

上越商工会議所で新幹線開業対策を担当する秋山裕樹・総務課係長は「富山の戦略には、こちらも危機意識をもって対処していかなければと痛感させられた。今後も行政と一体となって観光誘客に努めなければ。観光に限らず、将来的にみれば、人口減少社会で新幹線というインフラが存在することは極めて大きな強み。この財産を活用していかない手はない」と強調する。

JR東日本は開業直後を除き、上越妙高駅の利用状況を発表しておらず、本稿では言及を割愛した。上越市新幹線・交通政策課によると、「謙信公祭」などのイベントが過去最高の人出を記録したほか、独自に詳細な新幹線利用の調査を進めているという。上越市やその周辺の「生活の質」が今後、どう向上していくのか。筆者が未調査の糸魚川駅周辺と併せて、長いスパンで注目したい。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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