とはいえ、上越市側には、開業を手放しで喜べない事情が幾重にも重なっている。
2014年8月、JR東日本・西日本が北陸新幹線のダイヤ概要を発表し、最速タイプの「かがやき」が上越妙高駅に停車しないことが明らかになった。
北陸新幹線を始め、JR誕生後にできた「整備新幹線」は、沿線の県が建設費の3分の1を支払ううえ、並行して走る在来線を第三セクターとして引き受けるなど、地元の負担も大きい。時間短縮効果が大きい「かがやき」が通過すれば、新潟県は負担相応の利益が得られない――。新潟県知事は猛反発し、上越市や周辺からも異論がわき上がった。しかし、JR側の翻意を求める動きがあったものの、結局、開業時点での「かがやき」停車は実現しなかった。
新潟県が二分される懸念も
新潟県は面積が広いうえ、非常に細長い。人口約80万の政令指定都市・新潟市を中心とする下越地方、人口約28万の長岡市を中心とする中越地方、そして人口約20万の上越市を中心とする上越地方に大別され、北東端の山形県境から西南端の富山県境まで陸路で約290km、直線距離でも約250km。北陸3県の富山、石川、福井がすっぽり収まる差し渡しで、面積も大差ない。
北陸新幹線の開業前、首都圏と上越市を最速で結ぶ鉄路は、上越新幹線と「ほくほく線」経由の特急「はくたか」を乗り継ぐコースだった。上越新幹線は東京と長岡、新潟を結ぶだけでなく、上越市と新潟市、ひいては新潟県全体を束ねる役割を果たしていた。しかし、北陸新幹線によって上越市は完全に別ルートで首都圏と直結した。詳細は別の機会に譲るが、新潟県内には「2本の新幹線が県土を分裂させかねない」という危機感が10年以上前から漂い、議論や対策もなされてきた。
もっとも、この懸念について上越市民に尋ねると、「北陸新幹線どころか上越新幹線の開業前から、新潟市よりも首都圏に近く、信越本線で直結しているという感覚が強かった。北陸新幹線開業によって、今さら県が分裂する恐れはないのでは」という反応が目立った。新潟県民としての一体感は抱きつつも、上越は県内でも独立性が高い地域だという認識が根付いている様子だった。
他方、新潟市内でのヒアリングの折、このような反応を先方に伝えると、驚く人が多かった。30年以上前から上越新幹線で首都圏と結ばれている新潟市民にとっては、上越市民の首都圏に対する「直結感」や意識の独立性は、少なからず意外に感じられたようだった。
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