トランプ氏が4年ぶりに政権の座へ戻ってくることになった。各国や市場は早くも身構える。
「アメリカファースト」を掲げるリーダーの返り咲き──。11月5日投開票の米大統領選挙は、共和党候補のトランプ前大統領が民主党候補のハリス副大統領に勝利した。
事前の分析では、大接戦となり勝敗が決するまで数日かかるとも目されていた。ところが、開票が始まると数時間で情勢が判明、トランプ氏は6日未明(日本時間6日午後4時半)、フロリダ州で勝利宣言をした。7つの激戦州すべてを制し、全米で獲得した選挙人は538人中312人と大差をつけた。総得票数でもハリス氏を上回る見通しだ。
トランプ氏優勢が伝えられた頃から、金融市場では米国株が上昇。EV(電気自動車)大手テスラの株価も、イーロン・マスクCEOがトランプ氏を支援していたため、次期政権下で恩恵を受けるとの期待から上がった。一方で米金利も上昇し、ドル高・円安が進んだ。選挙前から活発となっていた「トランプ・トレード」が加速した形だ。
米国の株式市場がトランプ氏の勝利を好感したのは、掲げる政策のうち、減税や規制緩和が景気拡大をもたらすとの期待からだ。
しかし、米国経済を専門とする大和総研の矢作大祐主任研究員は、株高の持続性に慎重な見方を示す。
「混乱が想定されていた大統領選を無事通過したことで、当面は様子見するつもりだった投資家もチャンスとみて米国株を買い進んだ。この先は、政策によって実際にどの程度、悪影響が生じるのか精査する段階だ」
気になるのは「インフレ再燃」
トランプ氏の政策メニューが米国景気に与える影響の方向性はまちまちだ。政策を実現する度合いでも影響は変わってくる。
その1つ、追加関税についてトランプ氏は、「中国に対し60%、そのほかの国に対しても10〜20%まで引き上げる」と言明している。だが、物価を押し上げ消費を悪化させるおそれがある。
また移民排除を強調しているが、流入した不法移民は人手不足を緩和し、賃金インフレを減速させる要因でもあった。制限すればインフレが再燃しかねない。
こうしたインフレ誘発的な政策への懸念が米金利上昇を招いた。FRB(米連邦準備制度理事会)は高止まりさせてきた政策金利の引き下げを9月から行っている。トランプ氏自身は低金利・ドル安を志向しているが、次期政権の政策がインフレを誘発すれば「利下げの終わり」が近づくとの思惑を招いた。
「トランプ・トレード」は張り出されただけの政策メニュー表を基に、株式市場が「期待」を、金利・為替市場は「リスク」をそれぞれ織り込んでいる段階だといえる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら