製紙業界に蔓延、エコ偽装の不都合な真実
日本製紙による古紙配合偽装の発覚を契機に、業界ぐるみともいえる不正行為の実態が明るみに出た。販売シェア確保が最優先され、環境保護はないがしろにされていた。
(週刊東洋経済2008年2月2日号より)
製紙業界で虚偽の古紙配合比率を表示した「エコ製品」が広範に生産されていた実態が明らかになった。
1月16日、業界2位の日本製紙グループ本社は、年賀再生紙はがきについて、公称の古紙使用率40%に対し実際は5%に満たなかったと公表した。今回は、年賀はがき用紙を納入する5社すべてで同様の不正行為が発覚したが、中でも日本製紙のシェアは約5割と圧倒的だった。
同時に、国や自治体に環境負荷の少ない製品購入を推進するグリーン購入法の対象品目(コピー用紙や印刷用紙)でも古紙配合偽装は発覚した。日本製紙の”自白”を契機に、王子製紙や大王製紙など偽装の公表に踏み切るメーカーは続出、その数は1週間のうちに10社を超えた。
環境対策より収益優先
日本製紙の中村雅知社長は自身が工場長だった1997年ごろから偽装を認識していたとし、不正を放置した責任をとって辞任する意向だ。
同社は昨年4月、再生紙生産が地球温暖化にむしろ悪影響を及ぼすとし「グリーン・プロポーション」なる独自コンセプトを打ち出した。それを受け、古紙100%配合紙の生産廃止まで決めていた。ただ、こうした事態に至った今、同社がどさくさ紛れに配合率乖離の是正を図ったとの疑いが残る。会見でも「グリーン・プロポーションがまやかしだと言われると、甘んじて受けないといけない」(若松常正専務)と苦しい答弁を繰り返した。
実は日本製紙の動きに連動するかのように、昨年7月31日には日本製紙連合会も、グリーン購入法で定める古紙配合率を引き下げるよう環境省に提案を行っている。基準引き下げの理由としては、廃棄物や添加薬材の低減と、二酸化炭素の排出低減という2点が挙げられていた。
製紙連の議事要録によると、前出の提案を決めた上級紙・塗工紙委員会は昨年5~7月に3回の会合を開いた。問題は委員会のメンバーだ。日本製紙や中越パルプ工業など、自社の偽装を認識していた役員が複数入っていたのである。業界ぐるみで偽装を隠蔽するため提案を行った疑いすら浮上する。「委員会で古紙配合率に乖離があるということが話し合われたことは一切ない」(上河潔常務理事)と製紙連は否定するが、真相解明はまだこれからだ。
白色度など、顧客の高い品質要求を優先した結果、古紙比率が基準を下回ったと各社は口をそろえる。ただ、郵政事業会社は「製紙メーカーから古紙配合率引き下げの話は、いっさいなかった」と語る。「顧客重視」とは表向きの言い訳にすぎないのではないか。大王製紙の井川意高社長は「(現行の配合基準が)できないと言っても、他社はできるのではないか(と考えがち)。失注したくないという気持ちがあった」と本音を漏らす。偽装の背景には自社の利益を優先したい心理があったと考えるのが自然だ。
過去10年、国内製紙の年間出荷量は約3000万トン前後で頭打ち。そうした中、「環境配慮型」の再生紙はニーズが高まり、各社とも受注に奔走した。が、「高い古紙配合率と高品質は必ずしも両立しない」という不都合な真実は隠されてきた。一定の古紙配合率を満たせば取得できるグリーンマーク(認定機関・古紙再生促進センター)やエコマーク(同・日本環境協会)についても、本当の申告がなされていたか今では疑わしい。
各社の個別調査には限界があり、偽装の常態化がいつ頃から始まったのかは依然やぶの中だ。ただ、「約10年ほど前から」とするメーカーがすでに複数現れている。製紙業界の腐敗の根は相当に深い可能性があり、全容解明にはもはや強権をもって臨む必要があるのかもしれない。
(週刊東洋経済:井下健悟記者 撮影:梅谷秀司)
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