徹底比較!私鉄各社「通勤ライナー」の実力 攻める小田急、京急は朝上り列車を新設

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このように、主に首都圏の大手鉄道事業者は着席ニーズに応える形で通勤ライナーをはじめとする着席サービスを拡充してきた。ここで紹介した事業者のほかにも首都圏では、JR東日本および京成電鉄が、また他地域では、JR北海道、JR東海、JR四国、JR九州、近畿日本鉄道、南海電気鉄道などが、通勤ライナーを運行している。また、JR東日本の首都圏の主要路線では、普通列車にグリーン車が連結され、朝および夕方・夜には多くの通勤利用がある。

変わり種としては、北陸新幹線の開業に伴い北陸本線の運営をJR西日本から継承した、あいの風とやま鉄道とIRいしかわ鉄道が全席座席指定制の「あいの風ライナー」を1日3往復運行している事例がある。利用は好調で、乗車率は81%であるという(あいの風とやま鉄道)。北陸新幹線の並行在来線問題を取材している北陸地方のある新聞記者も「『あいの風ライナー』は並行在来線運営会社の収益を確保し、しかも一般列車の混雑緩和にも役立っている」と評価した上で、「ライナー列車のさらなる増発があってもよい」と期待する。

一般列車の利用者の利便性を損なわないよう配慮することが前提となるものの、通勤ライナーの運行は、鉄道事業者にとって有力な収益向上策であるとともに、利用者の着席ニーズを満たすことで顧客満足度向上を図ることが可能な方策でもある。

「通勤ライナー」が止まる駅の魅力

また冒頭でも紹介したとおり、鉄道沿線の地域にとって、特急列車や通勤ライナーの停車駅であるか否かは、街の魅力度を決める一つの要因となる。

西武レッドアローの新所沢駅・小手指駅停車を公約に掲げている所沢市議会議員の石本亮三氏は「都心に通勤している『埼玉都民対策』として特急停車が是非とも必要。ロマンスカーの海老名駅停車は、長距離通勤の実情に理解のある市職員が奮闘したからこそ実現したものと受け止めている。所沢市も街の魅力を高めるために、海老名市の取り組みを参考にするべきだ」と注目する。

海老名市では、特急ロマンスカーの海老名駅停車は、鉄道事業者と市民が鉄道と街の発展のために共に努力してきたことにより実現した大きな成果の一つであると捉えており、今後激しさを増す都市間競争で勝ち抜くために、さらなる街の魅力向上に取り組んでいきたい考えだ。特急ロマンスカーの停車駅昇格が大きなアピールになることは確実である。

海老名市の事例は、特急列車や通勤ライナーの停車駅でない地域が、停車駅への昇格を目標に据えることで、街の活性化へつなげられることを如実に物語っている。

鉄道事業者は自治体と連携しつつ鉄道サービスを磨き上げるとともに、自治体も鉄道事業者および市民とタッグを組んで街の活性化に取り組むことで、鉄道と地域がともに発展する関係を構築することができる。通勤ライナー停車駅を持たない鉄道沿線自治体は、鉄道事業者と連携しつつ、停車駅昇格を目指してはどうだろうか。それが鉄道と街の魅力を共に高めることにつながるだろう。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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