KDDIが"ローソン経営"で狙う「シナジー」の中身 5000億円投資に見合うリターンを得られるのか

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本業である通信回線の拡大に向けても、いくつか新たな取り組みが示された。

KDDIが展開するオンライン専用ブランド「povo」について、「サブ回線」での利用を想定したeSIMを2024年度中に全国のローソンで販売する。髙橋社長は「(サブ回線について)ドコモユーザーも、ソフトバンクユーザーも、あらゆるキャリアのユーザーでセットアップができて、速度制限の問題も解決する」と強調した。

povoのサービス画面イメージ
ローソンに来店すると、povoのデータ容量を無料で100MB提供する施策を2024年中にも開始する(撮影:尾形文繁)

コンビニを通じた携帯電話事業の拡大に向けては、店舗に端末や販売員などを置かない限り、来店者に機種変更や他社からの乗り換えを促す本格的な販促活動はハードルが高い。

一方、大規模な通信障害が近年相次いだことなどから、主回線だけでなくサブ回線を持ちたいという消費者のニーズもあり、サブ回線を追加する気軽な形であれば、一定の利用者獲得につなげることは期待できる。

さらにpovoのデータ容量について、ローソンに来店すると1回につき100MB(月の上限は1GB)を無料で提供する施策も2024年中に開始すると発表した。消費者がサブ回線を取得するインセンティブを示しつつ、自社ユーザーのローソン来店を促して店内でのついで買いにもつなげる狙いだ。こうした回遊性を高める仕組み作りは、今後KDDIとローソンの相乗効果を発揮していくうえで鍵を握りそうだ。

5000億円投資のリターンなお見えづらく

KDDIによるローソンへの出資が発表された当初、投資対効果への不透明感などから懐疑的な動きを見せていた株式市場は、一連の発表を一定程度好感したようだ。会見の翌9月19日には、KDDIの株価は前日比2%弱高の4813円に上昇した。

ただ、2月の提携発表以降、KDDIの株価は低迷し、6月には一時4100円台まで下落していた。現在の株価は、提携発表直前と同じ水準にようやく戻った状況にある。

髙橋社長も9月3日に開かれた自社イベントの場で、「小売りの利益率は、通信よりも高くない。実は出資をしてから、半年間くらい、投資家に『なんでこんなところに出資するんだ』と言われ、抗弁するのが非常に大変だった」と明かしていた。

今回、ローソンを通じた自社事業強化に向けた具体策をいくつか示したとはいえ、5000億円という投資額のインパクトと比べると決定打に欠ける印象も受ける。投資に見合うリターンを得られるのかという観点では、具体的な数値指標の公表も限られていた。

KDDIは会見で、ローソンを通じた地域社会貢献など「ソーシャルインパクト」という言葉も強調した。公共の電波を使って社会インフラを支える通信会社として、ローソンの経営についても、純粋な利益追求にとどまらない意義を打ち立てたいという考えだろう。

携帯キャリアとして初のコンビニ経営になるだけに、まだ手探りの部分が多いことはたしか。だが、市場の懸念をさらに払拭していくためには、経済圏拡大などの具体的な成果を着実に示すことが求められそうだ。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、通信業界とITベンダー業界を中心に取材。メディア、都市といったテーマにも関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んだ。

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