ロシア共産党第2書記のイリイン氏の自宅がある建物のエレベーターは12階で止まった。玄関は二重ドアになっている。
──共産党や政府の幹部が住んでいる住宅に防犯用の鉄扉は要らないんじゃないでしょうか。
「そうでもないよ。ノメンクラトゥーラ(特権階層)の住宅を専門とする窃盗団もいる。ほかの家が防犯用の鉄扉を付けていると、木製の扉だけの家が狙われる。窃盗団は防御の手薄な住宅を狙うんだ。それから、窓には鉄柵が必要だ」
──火事のとき、逃げられなくなるんじゃないでしょうか。
「大丈夫だ。柵は内側から外すことができるようになっている」
──以前からこんなに防犯に注意していたのでしょうか。
「ペレストロイカが始まってからだよ。それまでは盗みたいようなものはあまりなかった」
そう言って、イリイン氏は笑った。イリイン氏はまず鉄扉を開けた。次に木の扉を開けた。
「ここが私たちの部屋だ。散らかっているけれどもどうぞ」
部屋に入ると鼻を突くようなペンキの酸っぱい臭いがした。
「壁紙を貼って、ペンキを塗り終えたばかりなんだ。ひどい臭いだろう」
──大したことありません。
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