JR貨物、不正を起こした「不適切な風土」の深層 データ不正が「現場の知恵」と化していた可能性
宅配便各社は代替トラックの手配に追われ、ヤマト運輸は成田空港から北九州に臨時の貨物便を出した。それでも荷物の到着が遅れ、引っ越しの日程に影響が出た。北海道からの農産物も道内各地でトラックへの積み替えを余儀なくされ、フェリーで本州に向かうことになった。
「天候不順でしょっちゅう貨物列車は止まる。今回も粛々と代替輸送に切り替えて影響はほとんどなかった」。あるメーカーの担当者は皮肉交じりにそう話したが、利用者からは不満の声が噴出している。
代替輸送の手配に追われた運送事業者は「発生した費用は今後JR貨物と協議する」と憤る。貨物鉄道を利用しているというメーカーの担当者は、「安定輸送はメーカーにとっていちばん大事。JR貨物にはこうしたことが二度と起きないよう早急に対策を講じてほしい」と注文をつける。
3つの車両所での「不正」
先述したように問題が起きていたのは3つの車両所だ。ただそれぞれで「不正」の実態が異なる。
検査記録がデジタル化されていた広島車両所では、基準値内の圧入力値を入力しなければシステム上、検査表が作成できなかった。そのため、過去の正常値を入力し、データを改ざんしていた。
川崎車両所では上限値を超えた際、機械的に上限値を入力していた。北海道の輪西車両所に至っては、上限値を超えた波形データを無邪気にそのまま検査表に添付していた。
車両所の助役や主任もこうしたデータを目にしていたが、「不正」は黙殺されていた。それも無理はない。圧入力値の上限を超えた際の扱いをどうするか、社内にルールがなかったのだ。作業員らには不正を働いている認識すらなかった可能性が高い。
車軸は、それを通す車輪の穴よりわずかに太くつくられている。圧力をかけて車輪を車軸に通すことで車輪が固定される仕組みだ。
「不正」に関与した社員は、圧入力値の下限を下回ると固定に不具合が起きると認識していた一方、「上限を少し超えても問題はないと思っていた」などと話しているという。こうした認識はJR貨物特有のものではなかった。
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