JR東海リニア「名古屋―新大阪」着工時期の矛盾 国がゴリ押し「2037年全線開業」高いハードル

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

そこで気になるのは、政府が2037年の全線開業を主張していることだ。名古屋―新大阪間の工事についての詳細は決定していないが、まだ2027年で予定されていた品川―名古屋間の開業後、速やかに工事を始めて2037年に全線開業するという前提に立てば、名古屋―新大阪間の工期は10年ということになる。だとすると、2027年には着工する必要がある。

しかし、2027年はまだ品川―名古屋間の工事を行っている時期だ。となると、経営リスクを減らすために工事を2段階に分けるというJR東海の方針に反する。

リニア中央新幹線 名城非常口
名古屋城の近くで進むリニア中央新幹線「名城非常口」の工事=2020年(撮影:尾形文繁)

2段階での工事が必要な理由は財務面だけではない。JR東海の人繰りの理由もある。2段階スキームにおいては、品川―名古屋間の工事を担当したスタッフが、同区間の開業後に名古屋―新大阪間の工事に移行する。そうすることで人員を効率的に活用することができる。しかし、両区間の工事が重複すると、人員を増やす必要が生じかねない。この人員増はJR東海の長期的な人事戦略に直結する。

さらに、建設現場の人手不足が顕在化する中で、十分な作業員を確保できるかどうか。人手不足が解消できないのに工事をしたら安全面に支障が出かねない。こちらのほうが重要な問題だ。

名古屋から先「2027年着工」へ動き出した?

工事を行う前には環境影響評価を行う必要がある。

その流れを説明すると、まず、事業主体が環境保全のために配慮すべき事項について検討を行い、その結果をまとめた「計画段階環境配慮書」を作成し、環境大臣などの意見を踏まえ、どのような方法で調査・予測・評価をするのかを示す「方法書」を作成、さらに、自治体の首長や住民らの意見を聞きながら調査を実施し、調査・予測・評価・環境保全対策の検討結果を示す「準備書」、準備書に対する環境大臣などの意見を踏まえ、必要に応じて準備書の内容を見直して「評価書」を作成する。

環境影響評価準備書
品川―名古屋間の環境影響評価準備書=2013年(撮影:梅谷秀司)

品川―名古屋間の環境影響評価を例に取れば、2011年に配慮書が公表され、方法書、準備書の作成を経て2014年8月に環境影響評価書を作成し、同年10月に工事実施計画が認可された。このスケジュールを踏まえれば、2027年に着工するためには遅くとも年内には配慮書を作成する必要がある。

こんなスケジュール感のもと、2023年6月にリニア中央新幹線建設促進期成同盟会は「2023年から環境影響評価に着手する」ことを決議し、政府も骨太の方針で追認した。

配慮書を作成する前にルートや駅の位置の詳細を詰めておく必要がある。品川―名古屋間では2008年には南アルプスの山中でボーリング調査を行っていた。名古屋―新大阪間については地元自治体の協力を得ながら文献調査などの準備作業を進めていたが、2023年12月7日、JR東海は三重、奈良両県の駅候補地周辺においてボーリング調査を始めたことを公表した。

関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事