JR東海リニア「名古屋―新大阪」着工時期の矛盾 国がゴリ押し「2037年全線開業」高いハードル
そこで、収支シミュレーションの結果、まず品川―名古屋間を先行して建設することにした。開業後はその運賃・料金収入で負債を返済し、経営体力がある程度回復してから名古屋―新大阪間の工事に移る。これなら長期債務残高を過去の経験値である5兆円以内に抑えることができるし、安定配当も継続できる。
その後、JR東海は2016年から2017年にかけて総額3兆円におよぶ財政投融資による借り入れを行った。民間からの借り入れよりも低金利で返済期間も長期にわたるため、経営リスクが軽減される。
品川―名古屋間の開業後に経営体力の回復にあてる期間を取る必要がなくなり、JR東海は「品川―名古屋間の開業後、速やかに名古屋―新大阪間の工事に着手することにより、最大8年の前倒しを目指す」と計画を修正した。8年の前倒しとは、2037年の全線開業を意味する。
しかし、静岡工区が着工できないことから、JR東海は品川―名古屋間の2027年開業を断念した。新たな開業時期をJR東海は明示していないが、静岡工区は2017年11月に工事契約を締結しており、工事着手から開業まで10年というスケジュールを当てはめると、仮に今すぐ静岡工区の工事を始めれば、開業は10年後の2034年9月ということになる。
あくまで「今すぐ始めれば」である。実際には静岡工区の着工時期について見通しは立っていない。
政府主張「2037年全線開業」が抱える問題
2027年開業断念を発表した後、JR東海は発注予定において山梨県駅の工期を2031年12月までと発表した。ほかに8月時点で公表されている発注予定を見ると第二大井トンネル、座光寺高架橋、道志川橋梁の工期はそれぞれ2030年3月、2031年3月、2030年3月となっている。これらをもって「2027年まで完成しない工区は静岡以外にもある」と主張する声も聞く。
が、リニアを担当する宇野護副会長は次のように話す。
「静岡以外でもスケジュールがタイトな工区があるのは事実。人手不足、資材高騰など工事をめぐる環境が厳しい中、お金をかければ2027年に間に合う可能性がある工区もあるが、いま無理をして2027年に間に合わせるのは合理的ではない」
経営判断としては自然だ。JR東海は今後の各工区の進め方について検討を進めており、これから発注する工事についても「工期は合理的に設定する」としている。
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