実はイギリスにはない?日本の線路幅「狭軌」の謎 世界各国の「軌間」が映し出す国際情勢と歴史
しかし、標準軌がすべての国に受け入れられたわけではない。各国にはそれぞれ異なる事情があったからだ。
軌間の決定に関わる要素はさまざまだが、大きくは鉄道の用途や地形、経済的な背景が影響している。一般的には、高速・長距離の輸送を担う鉄道は列車をより安定して走らせられる標準軌やそれより広い広軌、日本の在来線のように山岳区間が多い国では「狭軌」が採用された例が多い。「氷河急行」で有名なスイスの山岳鉄道も、日本よりやや狭い1000mm(1m)の狭軌だ。
一方でスペインのように、険しい地形でも強力な機関車を走らせられるよう、標準軌より広い1668mmを採用した例もある。ポルトガルも同じ軌間のため「イベリアゲージ」と呼ばれる。
だが、それだけではなく、軍事的、政治的な問題も深く関わっている。鉄道が各国に広まった19世紀や20世紀初頭の国際政治がもたらした結果が、今も引き継がれているのだ。
軍事や「植民地主義」の影響も
欧州各国と国土を接していた帝政ロシアは、独自の1520mmという軌間を選んだ。実際には定かではないが、これは軍事上の観点により、外国の列車をロシア領に侵入させないようにしたいという思惑があったからだといわれることが多い。
かつて広大な国土を擁していたソビエト連邦では、鉄道網をこの1520mm軌間で敷設した。このため、冷戦終結後に独立した各国は国境で台車ごと交換を余儀なくされるなど、欧州主要国との直通運転で頭を悩ます事態となっている。
そして、今まさに大きな影響を受けているのが、ロシアに侵攻されているウクライナだ。
ウクライナの鉄道網はソ連時代の1520mmで、そのままでは基本的にロシアなど旧ソ連圏の国にしか乗り入れできない。そこで、現在加盟を目指している欧州連合(EU)との経済的な連結強化の一環として、鉄道網の標準軌への改軌を進めている。
すでに西部の国境付近では、標準軌鉄道の建設が進んでいるほか、ポーランドに近い地域では標準軌車両を入れるための路線設計も進んでいるという。こうした動きはEUの支援を受けながら、ウクライナの復興と欧州との経済統合に向けた重要なプロジェクトとして推進されている。
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