「向上心」と「怠け心」どちらが人間の自然な姿か 何を「サボること」に魅力を感じるか実験で検証

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この結果から、人間はできることなら努力したくない生き物だといえるのかもしれません。もしそうであるならば、「ラクにしてあげる」介入、つまり選択や行動にかかるコストを最小化してあげるような介入は、効果的に働く可能性があります。

この性質をうまく利用しているのが「ナッジ」です。

今回紹介した実験のように、選択の余地は残したまま、望ましい選択に誘導するという介入の仕方は「ナッジ」と呼ばれています。「ナッジ」とは「ひじでそっとつつく」という意味で、強制するのではなく、よりよい選択肢を「ナッジ」して気付かせてあげようという発想に基づいています。

強制せずに人を動かす

(イラスト:芦野公平『努力は仕組み化できる』より)

ナッジは2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞して以降、政府や自治体・企業の取り組みとして注目を集めてきました。

『努力は仕組み化できる 自分も・他人も「やるべきこと」が無理なく続く努力の行動経済学』書影
『努力は仕組み化できる 自分も・他人も「やるべきこと」が無理なく続く努力の行動経済学』(日経BP)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

「ナッジ」の文字は、新型コロナウイルス感染症対策に関するニュースで目にした人も多いかもしれません。

例えばスーパーのレジ前に、少し広めに間隔を開けて人の足形の表示がされているのを見たことがある人もいるでしょう。何か指示されなくても、地面に足形が表示されていれば、それに合わせてついつい立ち止まってしまう。

このような、強制ではなく人と人との距離を生み出す仕組みは一時期話題になりました。

他にも、ホテルで連泊する際に「80%のお客様がシーツとタオルを再利用してくださっています」のような案内を見たことはないでしょうか。

この案内を見ても「絶対に再利用しなければいけない」と強制された感じはせず、「そんなにたくさんの人が再利用しているのなら、自分もしてもいいかな」とシーツとタオルの再利用に自然に同意する人が多いと思います。

これもナッジの1つで、「社会規範(記述的規範)」を用いて望ましい行動に誘導しようとするものです。

参考文献
・小林庸平(2022)「ミドル世代の資産形成を促進するナッジメッセージ─実証実験を踏まえた検証─」、「すべての人に世界の成長を届ける研究会」2021 報告書「2041 年、資産形成をすべての人に けん引役は団塊ジュニア世代~ 8 つのActionsと12 のアイデア~」
山根 承子 パパラカ研究所 代表取締役社長

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やまね しょうこ / Shoko Yamane

博士(経済学)。専門は行動経済学。大阪大学経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学。近畿大学経済学部准教授を経て独立。自治体や民間企業に行動経済学とデータ分析のコンサルティングを行っている。著書に『今日から使える行動経済学』『行動経済学入門』など。

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