中国は米国や日本に対してAIIBに参加するよう勧誘しているが、出資比率は変えないだろう。現在でも米国のGDPは世界の22.4%と中国の1.7倍あり、国内総生産にしたがって出資比率を決定しなおすと中国の圧倒的地位は消滅し、最大の発言権は米国に取られてしまうからである。
個人的な推測だが、中国は今後BRICSにおける各国との付き合いはほどほどにしながらAIIBに力を集中していくのではないかと思われる。
中国が圧倒的な決定権を持つ銀行を設立しようとしたのは、シルクロード一帯開発計画を進めたいからである。この計画は陸上と海上にまたがっており、陸上は中国から中央アジアへつながる「一帯」であり、海上は東南アジアからスリランカ、パキスタンなどの主要拠点を経て地中海まで伸びる「一路(ルートのこと)」である。ただし、この2つが別々に使われることはなく、常に「一帯一路」と呼ばれている。
中国の大国化戦略の一環
この構想は中国の大国化戦略の重要な一環である。その実現のためには、中国は各国と常識的な意味の協力を進めるだけではとても足りず、中国が強力なリーダーシップを発揮していかなければならなかった。
中国は、地域の発展のために中国自身が旗を振り、主要なスポンサーとなり、事業の中心になるのは当然であるとみなしているようだ。2015年3月末のボアオ・アジアフォーラムで、習近平主席は、「中国と周辺の国家が運命共同体の意識を樹立することが重要である」「一帯一路(海上シルクロード)戦略はそのための重要なブースターとなる」と述べたと報道された(4月13日付の『大公報』紙がシンガポールの『联合早報』を引用)。これは伝統的な中華思想をほうふつとさせる中国中心主義ではないか。
最後に、中国の政治状況にも注意が必要である。AIIBや「一帯一路」の背景には、共産党の独裁体制を維持していかなければならない、そのためには高度な経済成長、また、それを支える大型プロジェクトが必要であるという中国特有の事情がある。短絡的に政治体制と結びつけるのは慎むべきだが、そのような問題がありうることを忘れてはならない。
アジアの巨大な投資需要を満たすというのは立派なことであるが、AIIBの運営が中国の国家戦略によって強く影響されることは不可避であろう。日本としては、国家としてではなく、商業ベースで対応・協力していくのが適切と思われる。
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