「最低賃金50円引き上げ」時代遅れの根拠なき議論 「経営者代表」を議論の主役にしてはいけない訳

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最低賃金の引き上げは、経済全体に対しても重要な影響を及ぼします。

最低賃金が上がることで、低賃金労働者の生活水準が向上し、消費活動が活発化することが期待されます。一方で、企業側には賃金コストの増加が負担となることもありますが、これは価格転嫁することで解決できます。

一部の人は生産性を上げてから賃金を上げるべきと主張しますが、日本企業の生産性は、それほどではないものの上昇しています。それにもかかわらず労働分配率が下がっているため、経営者は賃金を上げていません。よって、経営者側の「生産性を上げてから賃金を上げる」という抽象的な意見は、そもそも経営者側が守っていないのですから、退けるべきです。

逆に、賃金を上げることで生産性を上げざるを得ないという現実もあります。外国の分析では、賃金を上げると経営者が生産性向上に必死になることが確認されています。

当初案「たった20円」経営者側は労働者を舐めている

経営者も労働者同様に利害関係者です。経営者に決定権を渡して、最低賃金の議論をさせるべきではありません。特に、経営者の団体は最低賃金の設定に必要な分析能力が十分ではないことは以上のことからもわかります。

実は今回の議論で、経営者側は当初案として20円の引き上げを示したそうです。とんでもない数字です。交渉とはいえ、公的な場でたった2%程度の引き上げを示す経営者側には、審議会に出席する資格はないとすら思います。

ビッグデータの時代では、最低賃金の設定には、もっと科学的なやり方が必要です。イギリスのLow Pay Commissionのように、学者や統計専門家がビッグデータを駆使して経済全体に与える影響を分析し、そのうえで労働者側と経営者側の意見をヒアリングする方法が求められます。

EUのように、最低賃金を平均所得の50%、中央値の60%に収斂させることも1つの方向性です。

人口減少が進む中、最低賃金は経済政策の中で中心的な役割を果たすべきです。たくさんの人の生活にかかることですから、労働者と経営者が根拠もなく議論を続けるのではなく、エビデンスに基づいた科学的なアプローチが求められます。

最低賃金の引き上げは、経済全体に対する影響を考慮し、ビッグデータと統計的な分析を用いて慎重に決定されるべきです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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