北朝鮮、携帯電話市場への新規参入はあるか 北朝鮮側からみた携帯キャリア事情

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ユン・グアンチュン処長

そのため、北朝鮮当局が「ピョル」を携帯電話市場に参入させて高麗リンクと競争させながらOTMTによる北朝鮮国内での管理・運営を厳しくし、現在高麗リンクの株式全体の75%を保有しているOTMTの持ち分を減らすことで、経営権をも北朝鮮当局(逓信省)が引き継ごうという腹づもりではないかとの推測が、北朝鮮ウオッチャーから出てきている。

では、北朝鮮側は現在の移動通信市場をどうみているのか。この「ピョル」が移動通信事業に参入することについて、北朝鮮・逓信省傘下で朝鮮逓信社移動通信局運営処のユン・グアンチュン処長(47、男)は「まったく正しくない。ピョルと移動通信網はまったく関係がない問題だ」と一蹴する。

チェ・ウン局長

実は、北朝鮮では高麗リンクに加え、「強盛(カンソン)網」と呼ばれる移動通信ネットワークがある。すでに2012年には強盛網が設置されていた。同社移動通信局のチェ・ウン局長(53、男)は、この二つのネットワークについて「高麗リンクはOTMTの企業的利益を代弁する通信網であり、強盛網は朝鮮民主主義人民共和国の国家的利益を代弁する通信網」と説明する。

高麗リンクは純粋な商業的サービスを目的にしており、強盛網は北朝鮮の経済、文化、生活など全般にわたる通信保障を確保するため、と言う。また、高麗リンクは平壌などの都市を中心にサービスを提供しており、強盛網は地方でもサービスを提供する全国的なネットワークだ。

全国に張りめぐらされた「強盛網」

では、高麗リンクと強盛網は共存しているのか。これについて、前出のユン処長は、「高麗リンクのサービス活動に支障を与えることはない。むしろ、朝鮮逓信社が高麗リンクを支援してきた」と言う。朝鮮逓信社が移動通信網の展開を計画した当時、鉄道沿線と道路網に沿って全国津々浦々にまで展開したいとの意向をOTMTに提案したところ、OTMT側は「そこまで手を広げると商業的利益に合わない。まずは都市部のような住民が集中している平壌市や咸興(ハムフン)市といった、北朝鮮を代表する都市から通信網を展開すべき」と主張したという。

そのため、「OTMT側が安心して商業サービス活動を進められるように、OTMTが提案する地域に通信網を設置した」(ユン処長)。その後になって、朝鮮逓信社が国家通信網を計画し、強盛網を整備していったと説明する。同社はまた、OTMTの事業展開のために、2008年から4年間は独占事業者として単独営業許可権を法制化し、2012年12月まで強盛網が商業サービス活動を行わないことを約束して、それを守ったと断言する。

また、都市部が主なサービス提供地域である高麗リンクのユーザーは、通話先によっては強盛網を通じたサービスを利用しているという。それによって高麗リンクは、サービスエリアの狭さによるユーザーの離反を防ぎ、加入者の維持を図ってきたとユン処長は指摘する。サービスエリアが全国となる強盛網と比べると、高麗リンクのエリアは都市部中心だ。その点を朝鮮逓信社はOTMTに配慮した、との主張だ。

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