ハイテク株暴落、トランプ「台湾発言」を読み解く 米中台に構造変化のリスクは生じるのか?

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トランプ氏自身が上記の補完関係の利益を理解するのかは確かに別問題である。だが、少なくともアメリカ経済界(とくに成長が続くハイテク産業)の台湾への姿勢は明確であり、首都ワシントンにおける超党派の台湾支持の理由の1つとなっている。この経済的な実利ゆえにこそ台湾海峡の平和と安定は重要となっているともいえる。

トランプ政権となれば取引材料として台湾は再三利用され、プレッシャーにもさらされそうだ。しかし、大きな実利が伴う台湾との関係や構造をアメリカはそう簡単に変えられないだろう。変えるとしても多くの利害関係者を巻き込みダメージも大きい。すでに共和党幹部やベテラン議員らはさまざまなメディアで台湾自身が防衛負担を増やすことは必要だとしながらもトランプ政権になっても台湾への支持は変わらないと伝えている。

「疑米論」を利用する中国との戦い

台湾海峡の安定において懸念されるのは、アメリカの姿勢が変化するかよりもむしろディールやそのためのはったりを利かせる姿勢によって台湾市民のアメリカへの支持を失うことにある。台湾ではアメリカが中国との対立のために台湾をただ駒として利用するだけで見捨てるのではないかと考える「疑米論」が存在し、世論調査では2~3割がこの見方を支持している。

中国は「疑米論」を助長させ、アメリカはどうせ助けにこないという認知戦を台湾社会に仕掛け続けている。台湾では中国との統一を望む民意は数%にすぎないが、当然中国との戦争を望んでいるわけでもない。

戦争回避のために軍事的な対中抑止を強化することが必要との考えは台湾で与野党共通だ。しかし、アメリカは台湾を利用するために防衛強化を望んでいるとの理解ばかりが広がれば、防衛強化が戦争につながりかねないとの世論の誤解が広がりかねない。

現在台湾議会は野党が多数を占め、国政が「ねじれ」状態だ。野党は与党の功績になるのを嫌い、防衛強化自体には本来賛成にもかかわらず細かな内容などに指摘を入れて、防衛予算を通さない可能性もある。疑米論が広がれば野党はその動きをとりやすくなる。

アメリカは決して善意や正義感だけで台湾を守ろうとしているわけではない。台湾が中国の勢力下に入ることが地政学的にも経済的にも不利益になることや米中対立で台湾に利用価値があることなど、アメリカ自身の国益追求の面は多分にある。台湾はそれを理解し、対中抑止や戦争回避で利害が一致しているから協力し、逆に利用もしている。

その中でアメリカの政権がわざわざ台湾社会に不信感をもたらす物言いをして、台湾の防衛強化が進みづらい方向に進めば、むしろ戦争を誘発してアメリカの利益を損ないかねない。アメリカの姿勢だけでなく、台湾社会に及ぼす影響を見極めることが今後の台湾情勢を見るうえで、そして政策や方針を決めるうえでの勘所である。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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