推定1万人!「無戸籍者」をどう救うべきか 現行の法制には数々の課題がある
「すでに1996年の法制審で民法772条を改正すべきと指摘された。われわれは法改正に取り組んできたが、民法改正は非常に難しい」
申し入れ後、同議連会長代理を務める公明党の大口善徳衆院議員は、記者団に法改正の苦難を吐露している。同法制審は嫡出子の推定が及ぶ期間を300日から100日に短縮すべきと答申したものだが、これでも夫に連絡をとりたくない妻にとっては、高いハードルになっているのだ。デリケートな問題であるだけに、細かな配慮も必要になる。大口氏は述べる。
「親子関係不存在の訴え以外に、子どもの実父を相手にする認知調停という手段もある。これなら妻の夫は関与しなくてすむのだが、中には『夫の言い分も聞きたい』という家裁もある。妻が夫と顔を合わさないような工夫も必要になるだろう」
貧困も原因に
民法772条以外で、無戸籍者になる主たる原因は貧困だろう。
「1970年代頃まで、出産費用を支払わないと出生証明書を出さない病院もあった。また、戸籍売買の被害者と見られる例もある。無戸籍のままだと教育を受ける機会を逃し、就職もままならない。貧困が貧困を生むという現実がある。この貧困の連鎖を断ち切らないといけない」
こう述べるのは、同議連の幹事長を務める民主党の林久美子参院議員だ。林氏は参院総務委員会で質問を重ねるとともに、質問主意書でも政府の見解を質してきた。たとえば2014年11月13日の総務委員会では、81%の自治体が無戸籍者の実態を把握していないことを指摘し、高市早苗総務大臣に実態の把握に努めてほしいと要求した。早速、その5日後、総務省は法務省と連名で法務局と自治体の担当部長宛てに、情報把握と支援について事務連絡を発令している。
そして2015年3月、文部科学省は、104市区町村教育委員会に無戸籍児童の就学状況について調査を行い、7月3日付けで以下のような結果を発表した。
同省が把握した無戸籍児童は、小学生相当年齢116人、中学生相当年齢26人の計142人。このうち就学していないのが1人、不登校状態が6人、欠席が目立つのは2人であることが判明した。
未就学期間がある児童は6人で、そのうち2人に7年以上の未就学期間があることがわかっている。また、要保護生徒の割合も無戸籍児童は12.1%で、全児童の平均1.5%に比べて突出して高いことも明らかにされた。早速、同省は全国の知事や教育委員会教育長などに対し、無戸籍の学齢児童の就学の徹底と、きめ細かな支援の充実への取り組みを要請している。
そもそも無戸籍問題は本人が成長してから解決するよりも、なるべく幼い間に解決することが望ましい。そのためには本人に代わって公的機関が積極的な役割を果たすことも必要になるだろう。
これについて林氏は、上川大臣への申し入れ後の会見で、「社会問題になっている居所不明児童の調査に無戸籍調査を付け加え、重層的にやる方法もある」と述べるとともに、「公的機関が戸籍創設を代行するシステムも考えていいと思う」と表明した。
豊かな日本のひずみともいえる無戸籍問題は、プライバシーの問題が絡むだけに根が深い。その解決には思い切った政治の力が必要だ。
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