厳しすぎる環境でも残る「街の電気屋」の知恵 なりふり構ってはいられない

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ヤマグチの家電製品の値段は量販店に比べて割高だが、それでもヤマグチで定期的に家電を購入する固定客は9200世帯に上るという。これはひとえに、日々のきめ細かなサービスが支持されてのこと。「地域小売店にしかできないことを続ければ、必ず活路はある」と山口社長は話す。

若いファミリー世帯に照準

東京・笹塚の電化のケイオー。顧客の中心は高齢者だが、若いファミリー層の開拓にも力を入れる。

一方、家電量販の主要な顧客層である30~40代のファミリー層をつかもうと奮闘している街の電器屋さんもある。たとえば東京・笹塚の家電販売店「電化のケイオー」だ。

「家のお母さんを元気にするサポートをしたい」。同店を運営する京王電業社の福田順亮専務はそう話す。現在、37歳の福田氏は創業60年になる同社の3代目だ。

今、必死に取り組んでいるのがリフォーム需要の開拓。リフォームを入り口にすれば、トイレ、風呂場やキッチン周りの家電販売にもつながる。電化のケイオーは自社で技術者を抱え、電気工事や水道工事、外装、屋根工事まで自社で対応する。複雑な工事は地場の工務店と連携して引き受ける。「家電単品の価格ではネットや量販店にかなわないが、リフォームであれば対抗できる」(福田氏)。

課題は若い世代との接点づくり。そのために、電池やプリンターのインクといった消耗品、小型家電のコーナーをつくり、まずは店に足を運んでもらおうと心掛ける。ファミリー層開拓のチャレンジは始まったばかりだが、家に関することは何でも相談に乗るなど、家電量販とは違った部分で自社の特色を出していくつもりだ。

後継者不足も深刻化

パナソニックには、創業者の松下幸之助が設立した「松下幸之助商学院」という、電器販売店の店主育成のための学校がある。いわば系列販売店の跡取り養成校だが、かつて年間約200人いた入学者は、現在では10人程度にまで減っているという。「若い人が入ってくるためには、まず電気店の仕事をどう知ってもらうかが課題」と前出の福田氏は語る。

週刊東洋経済は7月25日号(21日発売)の特集『ヤマダ電機 落日の流通王』(全38ページ)で、わずか2カ月で50もの店を閉鎖したヤマダ電機を含む、家電量販サバイバルの最前線を追った。

家電量販店、そしてインターネット通販がこれほど普及した今の時代、街の電気屋が生き残っていくのは容易ではない。高齢者の御用聞きになる、リフォームで家庭に入っていく――。価格以外の面で徹底した差別化を図っていかなければならない。生き残りのためには、なりふり構っていられる状況ではない。

許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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