秋田の無人駅で「"がっこ"爆売れ」感動の舞台裏 "漬物危機"に瀕したお母さんたち「3年間の奮闘記」
その334ある施設の1つが、秋田県北部の真ん中、四方を里山に囲まれたマタギ発祥の地、大阿仁地区にある。
その名も「阿仁比立内がっこステーション」。地域のにぎわい創出に取り組み、2015年から年1回(2月)でがっこ市を開催する一般社団法人大阿仁ワーキングが運営する。
2023年11月1日に共同加工所をオープンさせ、今年2月、記念すべき10回目のがっこ市は午前中で完売する大盛況ぶりだった。出品者の主婦たちが自ら販売を行い、売り上げの10%を大阿仁ワーキングがいただく独立採算制だ。
この共同加工所がある場所は、その名に冠したとおり、秋田内陸線の無人駅・比立内(ひたちない)駅の中。さらに加工所以外に地域の交流スペースやコワーキングスペースも作り、地域交流の場としても活用されている。
「お母さん」たちの進撃
今から3年前に改正食品衛生法が施行されたとき、大阿仁ワーキングは頭を抱えてしまった。2015年から1年に1回、豪雪の2月に開催している「がっこ市」が存続の危機に瀕したからである。
自家製の漬物を出品するがっこ市メンバーの“お母さん”たち――大阿仁ワーキングでは尊敬と親しみをこめてこう呼ぶーーも意気消沈。70~80代を中心にがっこ作り歴半世紀以上の大ベテランのお母さんたちは、口々につぶやいた。
「もう売られねば、がっこ市に出すのもやめねばなあ」
「んだな。年も年だし……」
少子高齢化が加速化し、若い世代の流出がとまらない大阿仁地区。人口は約800人。この20年でほぼ半分に減った。特別豪雪地帯に指定され、積雪3mにもなる。
10年前、長い冬場の一番寒い2月に『道の駅あに』で初めてがっこ市が開催された。大阿仁ワーキング事務局長の寺川重俊(70歳)さんは、お母さんたちが出品したがっこに驚いた。
「大根のビール漬けにしても、お母さんたちの味はすべて微妙に味が違うんです。そしてお客さんもまた自分好みの微妙な味を買い求めにきて、ちゃんとお目当てのものに出会っているんですね」
回数を重ねるごとにがっこ市は賑わいを増し、多いときは1000点以上のがっこが並ぶまでになった。法改正のために伝統の漬物文化やがっこ市の賑わいを絶やすのはもったいない。そこで共同加工所を作ることを決意した。
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