社会課題に取り組む「やったふり」からの脱却方法 経済価値と社会価値の両立を目指すことは可能
新たに事業に取り組む上での最初のステップは課題設定である。これは自社として何の社会課題に着目し、どのような価値を提供するかを考えるステップである。「やったふり」に陥らないためには一般的な社会課題ではなく、自社ならではの視点や仮説を持つことが重要である。
例えば、人口減少と言えばどの業界にも共通する社会課題と言えるが、一段と解像度を上げるためには自社の事業の背後にある負の側面に着目することが重要である。自動車メーカーにとっての交通事故や、飲料メーカーにとってのアルコール中毒の問題は、事業の背後にある社会課題の例として挙げられる。その上で、自社だけでは新たな提供価値に限界のある点はスタートアップ等、外部のプレイヤーと協業して進める方法も有力な選択肢である。
「やったふり」にならない、持続的な取り組み
次に経済価値と社会価値が両立された事業モデルを考える。このステップは経済価値と社会価値を両立する「結節点」を見つけるためのステップで、「やったふり」にならない、持続的な取り組みにしていく上で基礎となる重要なステップである。具体的なポイントとして、経済価値だけでなく、社会価値を取り入れるために、時間と学習の視点を取り入れる点が挙げられる。
多くの企業では事業モデル構築の段階で、市場規模と自社の取り分を計算したシェアを重視してモデルの構築を行う。一方で、社会価値との両立モデルでは、社会課題を解決することで、自社にとってどのような学習効果があり、事業成長に繋がるか、を検討軸として重視する。目先に計算できる経済価値を追って、社会価値を後付けするのではなく、「社会価値」が中長期的に自社の事業成長に寄与する視点を持つ点が重要である。
「結節点」を見出した例として株式会社丸井グループは知的障がいのある作家とライセンス契約を結びビジネスを展開する株式会社ヘラルボニーと組み、「ヘラルボニーカード」を提供している。
丸井グループ共創投資部の武藤氏は、フィンテックと小売との掛け算で利益とインパクトを創出できる共創先を探索する中で、ピッチイベントでヘラルボニーと出会った。その出会いをきっかけに、カード利用金額に応じた還元ポイントの一部(0.1%)を知的障がいのある作家に還元する仕組みを実現した。この仕組みにより、社会貢献に関心のあるZ世代の若年層やアートに興味があり創作活動を支援したいユーザーの獲得に成功している(2024年6月時点で現在、会員数2万人以上)。
ポイントの還元率が業界の競争軸とされる中で、同社は色々な人の「好きを応援するカード」を提供することを事業戦略の一つとし、障がいのある作家に対する寄付という社会価値を事業の中で実現している点で、モデルケースと言える。