富士急が買収「西武の遊覧船」小田急にどう対抗? 2人の人気鉄道デザイナーが芦ノ湖で「競演」

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そらかぜの製造のベースとなった船舶は1985年竣工の「はこね丸」。これをどのように改造するか。「富士急らしい船を造ろう。では、海賊船とは違う富士急らしさとは何か」。川西氏のデザインはこの問いかけから始まった。

富士急は鉄道事業を営むが、事業の主力は富士急ハイランドを中核とするレジャー・サービス業だ。そこで思い至ったのが、富士急ハイランドは森を切り開いて造ったのではなく、溶岩の台地に土を入れ、木を植え、緑豊かな遊園地にしたという事実。「そうだ。自然、緑をテーマにしよう」。

そしてできあがったコンセプトが「芦ノ湖に浮かぶ緑の公園」である。船の甲板を緑あふれる公園にするという大胆なアイデア。これなら海賊船との差別化も図ることができる。

箱根遊船はるかぜ 船尾
船尾に蔦を生やしたそらかぜ(記者撮影)

甲板には天然の芝生が

甲板には芝生を育成し、船尾には蔦を生やした。普通の人が思い浮かべる遊覧船のイメージとは明らかに異なる驚きのコンセプトだ。それだけに、実現までには紆余曲折があった。芝生については天然芝と人工芝のどちらを採用するか。天然芝は手入れの手間がかかるし、人工芝は紫外線による劣化でダメージを受けると、繊維が雨で流れたり風で飛ばされたりして湖に流れ出てしまう。

そらかぜ 船尾の蔦
内部から見た船尾の蔦(記者撮影)
箱根遊船そらかぜ 甲板
甲板には芝生が広がる(記者撮影)

富士急側と議論を重ねたが結論がなかなか出なかったある日、川西氏が堀内光一郎社長と食事する機会があった。「そらかぜのプロジェクトは進んでいますか」と尋ねる堀内社長に、川西氏は「大丈夫です」と太鼓判を押した後、「1点だけ」と続けた。

「人工芝の繊維が湖に流れてしまうのは避けるべきです。地域のみなさんは、富士急さんを見ていますよ」

堀内社長もこの考えに賛同した。そらかぜを通じて富士急は自然を大切にする会社だというメッセージを発信できる。

早朝には、乗務員たちが芝や蔦に水を撒いている様子を見ることができる。通常の船ではありえない光景。これが乗客をわくわくさせる。「富士急には遊園地の精神がある。それは客の感動なしに会社の成長はないということ。手間がかかることはやらないという会社ではない」と川西氏は話す。

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