岡山のバス会社、「日本最安」運賃100円でなぜ黒字 「安かろう悪かろう」ではない快適性高める工夫

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宇野バスは、車両の低床化についても独特の取り組みを行っている。近年では、バリアフリーの観点からバス車両の低床化が求められる時代となり、一般的なバス会社では新たにノンステップバスを導入することで、バス車両の低床化を実現することが通常だ。

しかし、宇野バスでは既存の高床バスのタイヤを小さいものに履き替えることでバスの車高を下げ、低床化を実現してしまった。タイヤの小型化により車高を7~8cm下げることに成功したという。タイヤの小型化による低床化を実現するにあたっては、タイヤだけではなくギア比を変える作業も必要になったというが、それでも当時宇野バスが所有していた72台のバスの低床化を約2000万円の費用で実現できた。

宇野バスのバス新車は1台当たり約2000万円であるというが、72台のバスの低床化にかかった費用は新車のバス1台分の費用。新車のノンステップバス1台はこれよりも高いことから、新車のノンステップバス1台分よりもはるかに安い費用で72台のバスの低床化を実現できたことになる。

なお、タイヤの小型化によりタイヤの消耗具合が4~5%程度悪くなり、タイヤの交換頻度が上がるというデメリットも生じたそうだが、それでもノンステップバスの購入による低床化と比較するとコストパフォーマンスはかなり良い。

運賃最低でもサービス最高を目指す

こうして知恵の限りを尽くしてコストカットを追求する宇野バスであるが、そのサービス内容は決して「安かろう悪かろう」ではない。宇野バスの車内は乗客が快適に過ごせるようにさまざまな工夫が凝らされている。

宇野バスは、岡山市中心部から岡山市郊外へ路線を延ばす。例えば、岡山駅から同市中心部の表町バスセンターを経由して、県東部の片上に向かう路線では、乗車時間が1時間以上に及ぶ。さらに、県北部のJR姫新線林野駅までを結ぶ路線は乗車時間が2時間に及ぶ。

こうしたことから、宇野バスの全車両では、車いす用の座席を除き、背もたれが高いハイバックシートを採用しており、長時間の乗車でも快適に過ごせるようになっている。座席モケットについては、メーカーも色も高級なブランドイメージのある阪急電鉄と同じ住江織物製の深緑色だ。

これだけではない。宇野バスの全車両には、無料Wi-Fiも完備されている。これは、2014年に宇野社長が、日本航空で機内インターネットサービスを開始したというニュースを見たことで、「自社のバスにも導入できないか」と考えたことがきっかけとなった。

当時、無料Wi-Fiの整備については、まだ黎明期ではあったが、多くの人がスマホを持ち、インターネットに接続して情報を得る社会になるというライフスタイルの変化に柔軟に対応した車内環境を整備するため、2015年から岡山県の路線バスとして初めて全車両で無料Wi-Fiが使えるようになった。

また、宇野バスは、新車の導入にも積極的で、基本的にバスは約10年間という通常の半分ほどの期間で新車への更新を行っていることから「宇野バスはいつもきれいで、乗り心地も良い」という定評があるという。

ハイバックシートの宇野バスの座席(筆者撮影)
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