原油価格はよほどのことがない限り下がらない アメリカのインフレも簡単には落ち着かない
ここで重要なのは、FTCが買収承認の条件として、買収される側のパイオニアの創業者であるスコット・シェフィールド氏がエクソンの取締役に就任するという人事を撤回することを求めたという点だ。
OPEC(石油輸出国機構)関係者とアメリカのシェール業界の重鎮でもあるシェフィールド氏は定期的に会合を開き、石油生産を意図的に低く抑え、相場を上昇に導くような行動をとってきたから、というのがその理由だ。
実は、こうした会合自体は秘密裏に行われていたわけではなく、特にサプライズという内容ではない。だが、かつては急速なペースで生産を拡大していたアメリカのシェール業界とOPECは敵対関係あったはずだった。だが今や、生産方針などについて意見を交換していたことに、再び市場の注目が集まったことの意味は小さくない。
「関係者の利害」は一致している
結局のところ、OPECもシェール業者も、石油価格が上昇すれば、それだけ収入が増える点では利害が一致しているということだ。
技術革新が進み、以前に比べるとかなり生産コストが下がったと見られているが、それでもシェールオイルはなお生産コストが高い石油であり、シェール業者の損益分岐点はサウジをはじめとしたOPEC諸国のそれを大きく上回っている。
新技術で、それまで掘削が困難だったシェールオイルを生産できるようになった、いわゆるシェールオイル・ブームが起こっていたときには、どの業者も、採算を度外視して生産を増やしていた。また生産を増やすことがその企業の価値を高めることにもなり、資金も潤沢に集まっていた。
だが、新型コロナの感染爆発によって経済活動が停止、石油需要が大幅に減少したことで、シェール業界を取り巻く状況も急速に変化した。現在は投資家の目も厳しくなっており、採算の合わない高コストの油田の生産は、削減せざるをえないというのが現状だ。シェール業者がOPECと協議していようがいまいが、価格が下がればシェールオイル生産も、その分伸び悩むと、見ておいたほうがよい。
今のところ、市場では2024年の世界需給に関して、自主的な追加減産の継続でOPECプラスの生産が伸び悩む一方、アメリカを中心にブラジル、カナダといった「非OPECプラスの産油国」の生産が増加するとの予想が出ており、このことが相場のかなり大きな重石となっているのは間違いないだろう。
もっとも、これらの産油国の生産の増加は、アメリカがシェールオイル、ブラジルは深海油田、カナダはオイルサンドと、どれも生産コストの高いものであることを忘れてはならない。
今の1バレル=80ドル前後の水準からもう一段石油価格が下がることがあれば、こうした産油国の生産は採算が合わなくなることから減少、一方でOPECプラスは追加減産を継続、価格動向次第では減産幅を拡大することもありうる。
アメリカをはじめ、高インフレに頭を悩まされている消費国は、その一因となっている石油価格の下落を望んでいるのかもしれない。だが、こうした構造的な問題を考えればわかるように、それは実現不可能である可能性が極めて高い。
石油価格が上昇基調を維持するなら、当然ながらアメリカを中心にインフレの高止まりは避けられない。金融当局が早期に利下げに転じるといった、インフレに対して楽観的な見方をしている人々は、改めて原油先物相場の先行きについて考えてみる必要があるのではないか。
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