共学校にも実社会にも潜む「男子校の亡霊」とは 男子校を潰しても男女平等にはならないワケ

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その価値観を前提にして、男女別学が主流だった時代には、男子向けの教育は「生産・仕事・競争」に偏っていた。女子向けの教育は「再生産・家庭・ケア」に偏っていた。世界的な共学化の流れのなかで、もともと男性のために計画され、多分にジェンダー・バイアスを内包した教育が、すべてのひとに施されるようになった。

世の中のすべてのひとが、「再生産・家庭・ケア」よりも「生産・仕事・競争」を重視する価値観を内面化してしまう。その結果が、現在のいびつな社会を形成しているといえるのではないか。すなわち、教育をされればされるほど、エッセンシャル労働ともいわれるケア労働の軽視、家庭や地域社会の弱体化、そして少子化が進行する……。

共学校のなかにいまだに「旧来の男子校の亡霊」がそれとは気づかれないように擬態して暗躍している。見えにくいぶん、たちが悪い。その結果ジェンダー・バイアスが社会に巧妙に行き渡る。拙著ではそのことを指摘する学術論文にも触れている。

これこそが、日本ではすでに9割の高校が共学になっているのになぜ男女平等社会にはなっていないのかという問いに対する根本的な答えであるように思われる。

男子校は包括的性教育の先駆者たれ

さらには、男子校出身者が東大のいわゆる「ホモソーシャル(女性や同性愛を蔑視することで維持される男性同士の癒着的人間関係)」な雰囲気をつくっているのではなくて、「最強の異性愛男性“勝ち組”集団」への無意識的な強い憧れを幼少期から刷り込まれた男子たちが≪東大≫に吸い寄せられてきているのではないか。

そこに至る最短ルートと認識されているのが時代によって共学の都立進学校であったり男子中高一貫校だったりするだけではないか。……と仮説を立てることができる。

≪東大≫と表記したのは、日本の競争社会の象徴としての意味がある。男子進学校だけの問題ではない。経済界は、若者の国際競争力を高めろとさらなる競争を煽る。競争に勝ち抜くマッチョな人材たれというメッセージと、多様性に開かれた協調的な人間であれというメッセージ。このダブルバインド・メッセージからいま、子どもたちは逃れられない。

しかるに≪男子校≫はたしかに諸悪の根源であった。ただしこの場合の≪男子校≫は、全国に2%しか残っていない男子校そのもののことではない。すべての学校および社会全体に潜む「旧来の男子校の亡霊」のことである。

社会の各所に潜んでいる男子校の亡霊を成仏させることこそ、男女平等社会の実現のためにいま必要なことではないか。そのヒントが男子校の性教育やジェンダー教育のなかにあることを、私は見た。

そのヒントを広く世の中に提供するために、そして、この男子校批判の風潮なかで男子校が男子校であり続けたいのであればなおのこと、男子校は圧倒的なレベルで反性差別的教育を行い、包括的性教育を行い、むしろ日本のそういった教育の牽引者となる覚悟を示すべきである。

男子校の性教育2.0 (中公新書ラクレ, 817)
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おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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