イーロンによるツイッター買収最大の罪とは フランシス・フクヤマ「未来は絶望か希望か」

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こうしたテクノロジーのいくつかは、崩壊するバブルです。それと比較すると、生成AIは違います。とてもパワフルで、変革を起こすものになるでしょう。

75年間の平和に「倦怠」を感じる人々

――最後に、リベラリズムの話に戻りましょう。あなたは、リベラリズムへの希望をまだ失ってはいません。その理由を聞かせてください。

こうしたものは、世代的なサイクルで進みます。

反リベラルな社会で紛争を経験したり、人権を剝奪するような独裁制のもとで暮らしていたりすれば、リベラリズムは大きな支持を得ます。

一方で、人権が保障される体制のもとで、人々はとても幸せに生活を送ることができます。人権が保障される体制とは、移動の自由、思想の自由、言論の自由、批判する自由が奪われない体制です。

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私たちは、過去75年にわたって平和で繁栄したリベラルな民主主義のもと暮らしてきました。この期間で、人々はリベラリズムに代わるもののひどさを忘れてしまったのです。

「やはり、リベラリズムは良いものだった」と気づく前に、私たちは反リベラリズムの期間を体験しなければならないのかもしれません。

インドはその好例です。インドでは、地方で暴力的な事態が数多く発生する余地があります。モディ首相は、そのような道をたどるでしょう。インドは、1世代ほどこうした地域間の暴力を経験して、はじめて気づくことになるでしょう。「リベラルな体制に戻る時が来たかもしれない。信仰を理由に差別されることはなかったから」と。

グローバル化が進んで、欧州の人々が比較的自由で繁栄した19世紀の後半から20世紀の前半、人々は平和な時を過ごしました。ですが、それでも欧州が戦争に向かうのは避けられませんでした。

これに関しても、先ほどと同じような世代に関する議論ができるでしょう。1914年の欧州は、1世紀ほど続く平和を謳歌していました。大規模な戦争はありませんでした。

たしかに普仏戦争はありました。しかし、それは短期間で終結しました。ある意味で、人々は退屈していたのかもしれません。欧州は、物質的に大きな進歩を見せた世紀でした。

しかし、人々はそれ以上のことを望みました。

そして、それは残念なことに、2つの世界大戦という形で実現することになりました。

私たちもそのような時を過ごすことになるかもしれません。

大国間で比較的平和が保たれた75年間を経て、人々がそれに倦怠を感じて、別の何かを欲するようになっているのかもしれません。

フランシス・フクヤマ 政治学者

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ふらんしす・ふくやま / Francis Fukuyama

1952年アメリカ生まれ。1989年に発表した論文「歴史の終わり?」で、西側諸国の自由民主主義が、人間のイデオロギー的進化の終着点なのではないかとの見方を示した。主な著書に『歴史の終わり』(三笠書房)、『IDENTITY(アイデンティティ)』(朝日新聞出版)、『リベラリズムへの不満』(新潮社)、『政治の起源』(講談社)など。

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