1割が白旗、「自治体システム大移動」で広がる混乱 171団体が「2025年度までの移行は困難」と表明

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たしかに、行政の内輪の話である今回のシステム移行では、直接的に住民サービスの利便性向上につながるわけではない。そもそも、どのような狙いがあり、なぜ始まったのか。

国が法律で自治体に義務付けた「システム標準化」とは、簡単に言うと、自治体ごとに違っていたシステムの仕様を、全国共通のものに改める取り組みだ。個別仕様のシステムを使う自治体は従来、国の制度改正のたびにシステムを独自改修していたが、標準化によって国が示す共通基準に基づいた対応ができる。そうすれば、運営効率化やコスト削減を図ることができるというわけだ。

自治体システムの移行をめぐる主な経緯

システムを標準化すれば、自治体がベンダーを乗り換えやすくなるという利点も期待されている。

従来、システムに詳しくない自治体の担当者が特定のベンダーに頼り切りになることで、その事業者しかシステムを運用できなくなる「ベンダーロックイン」が問題視されてきた。ベンダーにとっては顧客が固定化されることで、競争志向が働かなくなるだけでなく、個別仕様の対応に労力が割かれ、主体的なサービス開発などに取り組めなくなる点も課題として挙がっていた。

自治体が事業者を乗り換えやすくなれば、競争環境が変わり、ベンダーが主体的に住民向けの新サービス開発にリソースを割くことも期待される――。国が描いている理想は、このようなものだ。将来的な住民サービス向上の「基盤作り」という位置づけと言える。

一気に動き出したのは菅政権下

プロジェクトが一気に動き出したのは、菅政権下だ。2020年9月に総理官邸で開かれた会議の場で、就任直後の菅義偉首相(当時)はこう言い放った。

「自治体の業務システムの統一・標準化については、住民が引っ越しても同じサービスを受けられ、全国一斉に迅速な給付を実現するために不可欠なものだ。今から5年後、令和7年度末までを目指し、作業を加速してまいりたい」

コロナ禍にあった当時は、給付金支給が進まない、正確な感染者数の把握が難しいといった自治体が抱えるシステムの問題が明らかになり、「デジタル敗戦」(平井卓也・元デジタル相)といった言葉も世に広がっていた。

行政のDXが求められる中、2020年12月に移行目標を「2025年度」と閣議決定すると、翌2021年には関連法制を急ピッチで整備し、自治体のシステム標準化を法律で義務づけた。同年9月には、新たに設置したデジタル庁がプロジェクトの旗振り役となる一方、直後に菅氏が首相の座から退任し、現在に至る。

ただ、移行作業が本格化し始めた今、自治体の間では政府方針に要望や疑問を呈する声も相次いでいる。記事後編「システム移動で自治体悩ます『2つのコスト問題』」では、自治体の頭を悩ますコスト問題の実態や、システム移行を着実に進めるための打開策などを追う。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、通信業界とITベンダー業界を中心に取材。メディア、都市といったテーマにも関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んだ。

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