フィリピン「ラスプーチン」で新旧大統領派が激突 指名手配犯の新興宗教教祖がカギを握る政局

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キボロイ氏は上下院の度重なる公聴会への呼び出しに応じないため、両院とにも議会侮辱容疑で逮捕状を発付した。キボロイ氏の弁護士は最高裁に逮捕状の違法性を訴えている。

キボロイ氏は2024年2月21日、「アメリカ政府はマルコス大統領、ロムアルデス議長と共謀し私の暗殺を狙っている。邪悪な政権を倒さなければならない」と大統領と議長の辞任を求める動画を支持者に送った。

これに対してマルコス大統領は「状況を改善したいなら上下院で証言することだ」と突き放した。コメントを求められた駐比アメリカ大使館は、「11歳の少女に対する性的暴行を含む(教団による)組織的な人権侵害が裁かれることを確信している」との声明を出した。

次期選挙で巻き返しを狙うドゥテルテ派

マルコス派とドゥテルテ派が決裂状態に陥っていることは先に「蜜月終焉、フィリピン正・副大統領間で大抗争勃発」(2024年1月31日)で書いた。

対立点の1つは、マルコス派が急ぐ憲法改正に対してドゥテルテ派が国民に阻止を訴えている改憲問題、もう1つは前政権の麻薬撲滅戦争にからむ国際刑事裁判所(ICC)の捜査に対する現政権の姿勢だ。

ICCは近く前大統領らに逮捕状を発布する可能性が指摘されており、現政権がこれに協力しないようドゥテルテ派が強く牽制している。これにキボロイ氏の処遇が新たな争点として加わった。

サラ氏は2024年3月11日、「キボロイ氏は宣伝のための裁きにかけられるのではなく、法廷の場で対処されるべきだ」と援護射撃の動画をSNSに投稿した。翌12日、マニラ市中心部の公園で催された教団の集会には前大統領、サラ氏のほか、ドゥテルテ派の上院議員らが一堂に会した。

あいさつに立ったドゥテルテ氏は約2000人の参加者に向けて、「改憲に熱心な大統領はこれまでに2人だけだ。マルコス・シニアとジュニア(ボンボン)だ」と話し、「デモはこの場にとどめ、マラカニアンに行くのはやめよう。国民の財産を傷つけてはならない」と呼びかけた。

1986年、マラカニアン宮殿(大統領府)に群衆が押し寄せて現大統領の父であるマルコス・シニアの独裁政権を倒した過去に例えたメタファーである。憲法改正を強行するなら父親と同じように群衆の蜂起で失脚するぞ、との警告だ。

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