モスクワテロ、ロシアが疑っている「本当の犯人」 アメリカは「犯人はIS」としているが本当か
さらに事件後、アメリカCNNなどは、イスラム過激派であるイスラム国(IS)に関連した通信社であるアマーク通信を通じて、ISが犯行声明を出したと報じ、『ニューヨーク・タイムズ』もアメリカ政府関係者の話として、アフガニスタンを拠点とするISIS-Kと呼ばれるグループの仕業だと報じている。ただし、前述のアメリカ大使館の警戒情報の時点では、ISに関する言及はなかった。
「ISが犯人」は本当なのか
確かに、ISはロシアのプーチン政権を憎んでいる。2013年、シリア内戦にロシアが介入し、空爆によりシリア国内のIS勢力に甚大な打撃を与えたことで、シリアのアサド政権は、ISの支配地域を奪回することに成功したからである。ただ、疑問が残るのは、アフガニスタンに拠点を置くISの1グループが、モスクワでこれだけの規模のテロを実行する目的は何かという点である。
もちろん、ISのような過激派武装組織の行動原理をわれわれの基準で判断すること自体が誤りかもしれない。しかし、仮にISIS-Kがプーチン政権の威信を低下させたとして、ISの支配地域をシリアなどの中東地域で拡大することにつながるだろうか。そうした実質的な成果にはつながりそうもない。
また、ロシアは中東において、イランやシリア、エジプト、イスラエルとも良好な関係を築いており、アメリカのように中東各地で敵視されているというわけではない。つまり、ロシアを標的にしたところで、アメリカを標的にした9.11の同時多発テロのような象徴的な意味を持つわけではなさそうだ。
確かに、ロシアには国内にテロリズムとの戦いという大きな課題がある。チェチェンをはじめとするイスラム過激派との戦いがそれだ。
1990年代後半から2000年代にかけて、プーチン大統領はチェチェン内戦を主導していた。前述の2010年モスクワ地下鉄爆破テロ以前にも、2002年モスクワ劇場占拠事件、2004年ベスラン学校占拠事件といった大規模なテロを経験し、多大な民間人犠牲者を出しているのだ。
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