NTT西日本「トップ辞任後」に試される改革の真価 新規事業の育成託された「異色社長」は引責辞任

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「情報流出は10年近く続いていて、森林さんが関係していた期間はごくわずか。彼が責任をとることになったのは不憫だ」。通信業界やNTT関係者からは、そうした同情の声も多く聞かれる。

子会社の不祥事はもとより、2年足らずでの森林氏の辞任は、NTTグループにとっても当然想定外だったはずだ。というのも、森林氏の社長登用は当時としては異例の抜擢人事であり、その経営手腕に多大な期待がかけられていたからだ。

NTT西の歴代社長は、NTT西またはNTT東で勤務経験の長い人物が登用されるケースが多かった。それに対して森林氏はNTT西を含めた国内地域通信事業における勤務経験が少なく、海外向けにデータセンターやITサービスなどの事業を手がけるNTTリミテッド(現在はNTTデータの子会社)やNTTヨーロッパのトップを歴任するなど、40年におよぶNTTの社歴の大半で海外畑を歩んできた。

森林氏を登用した背景には、NTT西が直面している苦しい経営環境がある。

NTT西日本の業績推移

NTT西はNTT分割によって、1999年7月に発足した。中部以西のエリアを対象とした、固定電話や光回線などの地域通信を中核事業とする。

ただ、電話の収益は携帯電話の普及に伴い減少が続き、光回線も飽和状態にあって大幅な伸びは見込めない状況だ。分割直後は一時、2.5兆円を超えるほどだった売上高は、直近では1.5兆円前後で推移している。

新規事業育成が使命と語っていたが…

固定電話の落ち込みは、NTT西にとって営業利益ベースで毎年200億円以上の下押し圧力となっている。NTT西と、東日本エリアで同様の事業を展開するNTT東は、NTTグループの主要会社を規制する「NTT法」の定めによって固定電話など通信回線の提供義務を課せられているため、赤字事業でも撤退が許されない。

NTT東と比べても、NTT西の切迫度はより高い。成長を期待できる自治体DXなど新規事業の売り上げ比率はNTT東のほうが高いとみられる(2021年度実績では、NTT東が4割に対してNTT西が約3割)。実際、2022年度の売上高営業利益率で比較してみても、NTT東の16.8%に対してNTT西は9%と、大きな開きがある。

そこでNTTグループが森林氏に期待したのが、海外経験などで培った知見を生かした新たな収益柱の育成だった。実際、森林氏は2022年7月に実施した東洋経済の取材に対して「新規事業を伸ばすのが私の使命」と語っていた。

森林氏は就任して早々、2022年度に「増収」「増益」の決算を達成することに加え、「2025年度までに新規事業の売上高比率5割超(2021年度実績は約3割)」という目標を掲げた。

しかし就任から2年近くが経った今、目に見えた成果は出ていないどころか、業績はさらに厳しさを増している。

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