上白石萌歌「姉は一番身近な、他にはない存在」 「ネガティブな気持ちに覆われたらもったいない」

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──  『リア王』はシェイクスピアの四大悲劇と言われる作品ですが、セリフも難解で、物語も複雑で。上白石さんは『リア王』をどんな物語だと捉えていますか?

上白石:私は大学では芸術科を専攻していて、その中で演劇学も学んでいました。シェイクスピアは演劇史に多大な影響を与えていますので、授業の中でも絶対に通る道です。『リア王』は在学中に、今回脚本の翻訳で入ってくださっている松岡和子さんの小説をたまたま読んでいて。まさか自分がコーディリアを演じられるとは思っていなかったので凄くうれしかったんです。

シェイクスピアの作品は生まれてから400年以上が経っていますけど、それでも尚、こうしていろんな座組で演じられているのは、物語の中に常にその時代にとって大事なテーマや問いがたくさんあるからかもしれません。

── というと?

上白石:例えば『リア王』は、今の日本で重大なテーマになっている「忖度」の話でもあるなと思います。冒頭にリアが3姉妹に「どれだけ自分を愛しているか言ってみろ」と言うシーンがあって、上の2人の姉妹はすごく流暢に愛を語るけれど、三女の私は口下手で上手に言えなくて、「何も(Nothing)」と言ってしまう。その場に合わせての忖度ができなかったんですね。

私も口下手なので、思ってもいないことを口にできるタチではないんですが、それでも、いざコーディリアと同じ状況になったらどうだろう、きっと周りに合わせてしまうかもしれない、とは思います。

── 上白石さんはコーディリアをどんな女性だと思いますか。

上白石:つるっとした丸い、真珠みたいな女の子(笑)。誰よりも実直だし、誠実で真っ白なイメージがあります。彼女は幼くて正直すぎるけれど、そこが強さであり誠実さなんだろうなと。勇気のいることをすんなりできてしまう、とても素敵な女の子だと思うので、私もそのように嘘なくいられたらいいなと思っています。

一方でその真っ白な正義感がリアを狂わせてしまう。リアが狂うということは、世界が狂ってしまうということなんです。純白なものが周りを狂わせていってしまうこともあるんだなと考えながら、今台本を読んでいるところです。

(写真:内田裕介(タイズブリック))

一番の仲良しを聞かれたら、真っ先に姉の名前を挙げる

── ところでこの作品は家族の物語でもありますよね。ご自身はお父様との関係はいかがですか?

上白石:ウチはお陰様で良好です(笑)。離れて暮らすのが早かったので、いわゆる反抗期の時期も一緒にいなかったから、“どっぷり反抗期”みたいなものはありませんでした。それはそれで少し寂しい感じではあるんですけど、だからこそずっと仲良しでいられるのかなと。父は学校の先生をしているのですが、作品を観た後に学級通信みたいな言葉を送ってくれます。「これからも自分を信じて頑張りなさい」みたいな(笑)。

──  「リア王」の3姉妹は仲が良くありませんが(笑)、上白石姉妹は大変仲良しです。今回、姉である萌音さんとは何かお話されましたか。

上白石:はい、私は久しぶりの舞台なんですが、姉は最近もずっと舞台をやっているので、その辺りの大変さも分かってくれるから色々話を聞いてもらっています。姉は一番身近な、他にはない存在です。同じ仕事をしているからこそ大変さがわかるし、姉を羨ましく思うこともあるし。たくさんの気持ちを通わせてきたからこその絆が今あると思います。一番の仲良しを聞かれたら、真っ先に私は姉の名前を挙げる、それくらい固い絆になってきている気がします。

── 演出家はショーン・ホームズさんですが、これまでの演出作品でご覧になられたものは?

上白石:ショーンが日本で上演している作品は今回も入れると4作品、偶然にもこれまでの3作品をすべて拝見しています。ショーンの演出は舞台上がクリーンなことが多くて、答えをわかりやすくは提示してくれないけれど、でもそこにしがみついていきたくなる、そういう面白さを感じていました。

チェーホフの『桜の園』の時にも感じましたが、伝統的な劇曲にショーンならではの現代の風を吹かせているようなイメージがあります。今回の『リア王』も伝統的な戯曲ですが、いわゆる古典的な劇にはならないかもしれません。筋書きやセリフはトラディショナルなままですが、衣装も不思議な感じですし、例えば現代に普通にあるものを舞台上に置こうとしている試みは感じます。きっとショーンにしか創り出せない世界があるでしょうから、それが今から楽しみです。

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