その見た目に光源氏が卒倒した「末摘花」の強烈さ 紫式部が突きつける読者自身の心に潜むもの
芥川龍之介は『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』を題材にしているそうだ。そのことからやはり古代人も容姿、とりわけ鼻にこだわり、大いに悩まされていたのがわかるが、平安女図鑑とでもいうべき『源氏物語』のなかでも、かなり残念な鼻を持った姫君が姿を見せる。
胸を膨らませる光源氏に強烈なオチ
言うまでもなく、それは末摘花、『源氏物語』第6帖に初登場を果たす強烈な姫君である。
その時点で、19歳の光源氏は、葵の上と結婚していた上に、六条御息所と関係を結びながら、夕顔との危険な情事に走り、忘れられぬ初恋・藤壺の宮と瓜二つの若紫を手元に置いている。普通の人はこれだけで十分お腹いっぱいになるだろうに、我らが光源氏はいつだって恋は別腹だ。
常陸宮のボロ邸に妙齢の姫君がいるという噂を、大輔の命婦と呼ばれる評判の「色好み」の女房に吹き込まれて、光源氏はすぐさま興味津々モードに切り替える。しかし、期待に胸を膨らませて会いに行ったら、件の姫君は不美人ばかりか、非常識で、貧乏でセンスもすこぶる悪くて、かなりのハズレくじを引いたというオチが待っていた。
コミカルなタッチで描かれている末摘花の物語において、大輔の命婦はとても重要な役回りを担う。彼女は光源氏の乳母の娘で、内裏に勤務するキャリアーウーマンだ。
確かに「色好み」と形容されている女性だが、本人が恋多き女だったとは限らない。どちらかといえば、家から一歩も出たことない姫君に比べて、男性のあしらい方が上手で、フットワークも軽く、スマートな女性といったようなニュアンスが込められている。
大輔の命婦は、後に末摘花という名で知られる女性の話を、以下のように光源氏に持ちかける。
「性格とか見た目とかよく知らないんだけど。シャイな人らしいので、私も几帳を挟んでしか話したことないの。お友達と言えば楽器の琴ぐらいだわ」
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