「トーマス列車」鉄道会社が赤字に陥ったワケ 崖っ縁大井川鉄道は生き延びられるか(上)

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経営悪化の引き金となったのは、この5年で、「SL急行」の利用者が急減したことである。

SL急行の運行が始まったのは約40年前の1976年、国鉄の蒸気機関車が引退した翌年だった。主導したのは、親会社である名古屋鉄道から転籍してきた白井昭氏(後に副社長)。過疎化による利用者減で経営難に直面した会社を再生すべく、SLブームの熱気に目を付けた。蒸気機関車C11を引き取って急行として走らせると、SLに魅せられた観光客が静岡県の小さな鉄道会社に殺到する。

普通列車の車体や機器はボロボロ

人気は1990年代も衰えなかった。年間利用者数は20万人強、2009年には過去最高の28万人を超えた。

それゆえに、大井川鉄道は他の中小私鉄とは異なり、観光客も含めた定期外客が輸送人員の79%、旅客運輸収入の93%を占める、という独特の経営構造になっている(2012年度。中小私鉄の平均はそれぞれ48%、63%)。特にSL利用者は営業収入の4割を占めていた。

そのビジネスモデルが崩れてしまったのである。

理由のひとつは、2011年の東日本大震災の影響で観光需要が沈んだことだ。2009年度に28.2万人いたSL急行の乗車人員は、2011年度に22.5万人と2割減った。

もっとも、静岡県全体の観光交流客数はこの間8%減に留まり、2012年度には回復している。大井川鉄道特有の原因があるのかもしれない。

2つ目は、2013年に高速バスの規制が強まったことである。関越道で高速ツアーバスの事故が起き、バス運転手ひとりで走行できる距離は1日500キロメートルと制限された。

都内から新金谷駅までの単純往復だとギリギリの距離だが、ほかの観光スポットに立ち寄るのは難しい。2人乗務にすると採算面で厳しくなる。ゆえにツアーからSL急行は外されたのだ。この影響もあって、同年4~12月のツアー予約は前年同期比46%減に縮小。2013年度の本線乗車客数は前年比10%減、収入は6%減に落ち込んだ。

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普通列車には京阪や南海電気鉄道、近畿日本鉄道で活躍をしていた車両を使用している。

こうした中、大井川鉄道の業績も低迷し続けている。

2012年3月期決算は7711万円の最終赤字に。2013年3月期は新東名道の開通により多少利用者が戻ったものの、依然1810万円の最終赤字を計上した。

さらに、バス規制の影響があった2014年3月期の純損失は8543万円と三期連続赤字となった。

2015年3月期はトーマス号効果で300万円の最終黒字の見込みと報道されている。地元の大反対を押し切って2014年3月のダイヤ改正で普通列車の本数を4割減らしたことで年間2300万円のコスト削減になったことも一因だ。

それでも、有利子負債は約35億円を超え、毎年8000万円の利息支払いが資金繰りを圧迫し、設備投資の資金にも窮していた。

普通列車には半世紀前の中古電車を使っている。京阪や南海電気鉄道、近畿日本鉄道の元特急車両だ。趣味的にはノスタルジーを喚起してくれる名車ばかりだが、車両整備の費用を惜しんでいるのか、車体や機器はボロボロで故障も目立った。今年から運転を始めた元東京急行電鉄の中古車2両も車齢は40年を超えている。

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