「兵士の命優先」で解任されたウクライナ軍総司令官 侵攻から丸2年、ウクライナ大統領が思い知った現実

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2024年のウクライナ軍の戦略を巡っては、アメリカ政府がウクライナに対し、防御専念を求めていると一部アメリカのメディアが報道している。しかし、軍事筋はこれに関連して「そもそもバイデン政権も攻勢に出ること自体には反対していない」と強調する。

しかしザルジニー氏は、いたずらに攻勢に出れば戦死者が増えることに懸念を示した。このため、ゼレンスキー政権として「今年戦争をできる司令官を採用した」という。

冒頭に記したように、大統領はシルスキー陸軍司令官を新たな総司令官に任命したが、このシルスキー氏こそ「今年の戦争ができる司令官」なのだ。

「今年の戦争ができる司令官」

同氏は58歳。ソ連時代に軍事教育を受け、西側への留学経験もない旧ソ連軍色の濃い司令官だ。2022年秋にウクライナ軍は東北部ハリコフ州の要衝イジュムを奇襲によってあっという間に陥落させたが、この巧みな作戦を指揮したのが東部を仕切る司令官のシルスキー氏だった。

新たにウクライナ軍の総司令官に任命されたシルスキー氏(写真・2024 Bloomberg Finance LP)

一方で2023年の東部要衝バフムトを巡る激戦では、ウクライナ軍側に多数の戦死者を出すことを厭わなかったとして部下から批判が出た。戦死者を出すことを嫌がるザルジニー氏とは対照的だ。

多くの戦死者を出してもゼレンスキー大統領の命令を黙々とこなそうとする姿勢は旧ソ連軍幹部を彷彿とさせる行動である。

そもそもウクライナ軍のソ連軍的体質からの脱却を目指して、西側的司令官であるザルジニー氏を総司令官に任命したのはゼレンスキー氏だ。先述したように、大統領とすり合わせもせずに「膠着」発言をしたことが象徴するように、思ったことをズケズケ発言する行動パターンも元々許容していた。

だが、ロシア軍との戦争で2年が経過する中、ロシア軍との戦争で求められる軍指導者像について、ゼレンスキー氏は非常に重い結論に達したのではないか、と考える。

つまり、戦死を承知の「捨て駒」として受刑者出身の突撃部隊を最前面に押し出して、波状的に攻撃を繰り返す非人道的なロシア軍と戦い勝つためには、ザルジニー氏的な兵士の生命優先論では対抗できないと悟ったのではないだろうか。

もちろん、シルスキー氏が総司令官として兵士の命を粗末に扱うと言い切るのは公平ではないだろう。しかし、ザルジニー氏と比べれば、戦果優先の側面が強くなる可能性は高いだろう。

こうしたゼレンスキー氏の変身を批判する向きもあるだろう。しかし、自軍の戦死傷者数が30万人以上に達したともいわれる残酷なプーチン・ロシア軍に対抗するには、やむをえない判断だったと考える。

これが3年目に入るウクライナ侵攻の現実なのだ。目を背けることなく、しっかりと直視すべきだ。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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