もちろん、筆者がこれまで再三指摘したように、反攻難渋の最大の要因はF16戦闘機などの供与をバイデン政権が渋ったことだ。だが、その裏でキーウはウクライナ軍の作戦にも問題があったとして、ザルジニー氏の総司令官としての能力に見切りを付け始めたのだ。
表に出ていないが、政府高官からは「明るくて人柄は良いが、総司令官としては無能だ」と吐き捨てる意見も出ていた。
さらに、歩兵部隊・戦車部隊・砲兵部隊・ヘリコプター部隊など異なる兵科部隊を単一の命令系統に組み込んで戦う「諸兵科連合作戦を彼はついにうまく実行できなかった」との批判も出ていた。
ウクライナ軍「戦略的防衛」からの脱却
しかし、今回の解任劇は単にザルジニー氏個人の総司令官としての能力、適性を巡る問題ではなかった。ウクライナ政府にとって、2024年の戦局全体にかかわる非常に重大な判断が背景にあったのだ。
ゼレンスキー大統領としては、ロシア軍の攻勢に耐え、現在の戦線を守って維持する、いわいる「戦略的防衛」のみで2024年を終える気持ちはない。
筆者は前回の「バイデンの存在薄くなる3年目のウクライナ戦争」(2024年1月30日付)で、「外交面でゼレンスキー政権の最大の目標は、2024年7月のワシントンでのNATO首脳会議で、ウクライナとの間でNATO加盟交渉に入ることが決まることだ」と書いた。
大統領としては、このサミットに向けウクライナ軍が攻勢を展開し大きな成果を上げることを目指しているのだ。ウクライナ軍の反攻能力健在を誇示、NATO加盟交渉入りの合意達成に向け弾みをつける政治的効果を狙っている。
しかしキーウの軍事筋によると、驚くべきことが起きた。2024年1月末、軍総司令官としてこの攻勢を指揮することにザルジニー氏は消極的態度を示したという。西側からの武器が揃うまでは、戦争はできないと主張した。
これが今回の解任の最終的引き金になったのだ。この春には、ウクライナ軍待望の戦闘機F16の第1陣が到着する見込みだが、武器がいつ揃うのかは不明だ。大統領としては、到着前であっても攻勢を開始することは可能とみている。
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