数千万円を失いかけた80代女性を救った「契約」 老後ひとり暮らしのお金を狙う悪徳業者も
前述のように彼女はかなりの資産を持っていたのですが、施設に入るにあたっては、持ち家などの資産を売却して、何千万円もの現金を、信仰している宗教団体にほぼすべて寄付する話になっていたのです。
そればかりではありません。遠縁の親戚も急にしゃしゃり出てきて、持ち家の売却益などの財産の分け前に預かろうとしていました。
彼女は人がいいので、頼まれればほとんどうなずいてしまいます。第三者である私から見ると、年齢のせいで少し判断能力も低下しているように感じられました。
そのため私は彼女を交えて弁護士と相談して、任意後見契約と財産管理契約を使うことにしました。
任意後見契約とは、障害や加齢などによって自分ひとりで物事を決めることが心配になった人に対して、後見人と呼ばれる人が代わりに契約などを行えるようにするものです。もちろん後見人は本人の利益になることしかできませんし、後見人がおかしなことをしないか監督する「後見監督人」と呼ばれる存在がつくこともあります。
彼女には弁護士が後見人としてついたことで、施設への入居にあたっての身元保証人の問題もクリアできました。また宗教団体への過大な寄付も阻止することができ、無事、ご本人の財産を守ることができました。
生活資金が奪われるリスク
もし、宗教団体や遠縁の親戚に言われるがままに財産を分与していたら、施設への入居も、入居してから亡くなるまでの生活の保証も危うくなっていたかもしれません。
人間はいつか必ず亡くなるのですが、そのときに財産が残っていると、分け前に預かろうと有象無象のやからが湧いて出てくることがあります。ご本人は嫌がっていなかったので、それはそれでいいのかもしれませんが、いつ亡くなると決まっているわけでもないので、手元不如意になるほどに財産が減らされてしまっては困ります。
特に、このケースのように認知症の診断を受けているわけでもなく、お身体にも問題がなくて要介護になっていないケースでは、信頼して相談できる人が身近にいないままに、騙されてお金をむしられることがよくあります。
せっかく老後の生活資金を貯めていても、それを奪われてしまっては何にもなりません。自分は大丈夫と思っていても、80代・90代ともなると認知能力、判断能力、意思決定力などは徐々に衰えてくるもの。そのときに頼れる相手もいないままでいると、思わぬトラブルに巻き込まれてしまうのです。
彼女が任意後見契約をあらかじめ結んでいれば、家庭裁判所に申し立てて、後見契約を発動させて止めることもできるのですが、もちろんそんな契約はどこにもありませんでした。
困った私が、どうにかなりませんかと弁護士に相談したところ、先に財産管理委任契約を結べば防波堤になるとアドバイスをいただけました。そこで、弁護士を彼女の財産管理者とすることで、ようやく資産の流出を防ぐことができたのです。
この件も含めて私がよくお世話になっている弁護士法人・森戸法律事務所の森戸尉之弁護士に、任意後見契約や財産管理委任契約の注意点について聞いてみました。
恐ろしいのは、財産管理委任契約も任意後見契約も、やりようによっては契約した相手の財産を勝手に使えてしまうこと。信頼できない相手と契約してしまうとたいへんなことになります。
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