今後数年の地経学的情勢を左右する選挙が2024年に相次いで実施される。
世界の人口と国内総生産(GDP)の半分近くに相当する国や地域での一連の選挙は、複合危機を意味する「ポリクライシス」の時代と呼ばれる局面で行われることになり、結果によっては不安定さが増すことになる。
HSBCホールディングスのチーフグローバルエコノミスト、ジャネット・ヘンリー氏は比較的落ち着いていた新型コロナウイルス禍前とは様変わりし、われわれは「世界的な混乱の時代」に生きていると指摘。「コロナ禍前と比べると、成長率は多少下がるだろう。インフレ率はやや上がり、ゼロ金利の世界に戻ることはない」と話す。
民主主義社会としてはまだ若いパキスタンやチュニジアに加え、欧州議会や英国でも選挙が行われる。ロシアでは3月に大統領選が実施され、プーチン大統領の当選が確実視されている。インド総選挙ではモディ首相の3期目続投が予想されるが、米大統領選などを巡っては不透明感が根強い。
一連の選挙結果は各国・地域の公共政策を左右することになる。戦争が相次ぐ中で、各国政府は軍備強化にかじを切っている。貿易ルートは地政学によって見直されつつある。絶望から逃れてきた移民たちは、国境警備隊に冷たく迎えられている。政府債務は膨張し、公的支出の精査も余儀なくされている。気候変動という非常事態は従来の経済機会を破壊し、新たな機会を生み出しつつある。
明るい面を挙げるなら、健全な民主主義国家は悪い状況から良いアイデアを引き出し、大多数に利益をもたらす潜在力を秘める。
当選を果たした議員らは国内有権者の支持を取り付け、世界的な協力を進めて課題を克服できるというのが望ましい姿だ。
分断なら下向きも
一方、外交的緊張に拍車を掛け、世界経済をさらに分断させる顔ぶれとなるなら、この数十年にわたり世界経済の成長を後押ししてきた従来モデルにとっては下向きのシナリオになる。
ブルームバーグ・エコノミクスのチーフ地経学アナリスト、ジェニファー・ウェルチ氏は「24年は政治リスクと選挙の不確実性という意味で重大な1年だ」とした上で、13日の台湾総統選は特に重要だと分析。「米国の選挙と同じく、国内と外交政策の大幅見直しにつながる可能性があるものもあれば、ベネズエラで予定される選挙のように、地政学的な摩擦を強めるきっかけになりそうな投票もある」と語る。
候補者と有権者の最も念頭にある問題は、米中対立でどちらに付くのかという重い課題から、インフレなど身近な問題まで幅広い。
以下で注目される主要な選挙と、それぞれの市場や経済への影響を展望する。