脱毛サロン「銀座カラー」破産に追い込まれた裏側 美容関連の「前金ビジネス」の倒産が相次ぐ

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TSRの調査では、担保となる資産の乏しいエム・シーネットワークスジャパンは従来から銀行借入(=有利子負債)は少なく、2022年4月期末ではゼロだった。過去の出店攻勢や同期末で41億9889万円の債務超過にあることを考えると、バランスシートに有利子負債が計上されていないのは奇異に映る。

では出店費用や赤字補填資金の主な出所はどこか。エム・シーネットワークスジャパンのバランスシートを見直すと、目を引く項目がもう一カ所ある。前受金だ。負債合計91億2373万円のうち、前受金が70億168万円に及ぶ。「負債前受金比率」は76.7%にのぼる。ただ、この比率はあまり耳馴染みがなく、定型化された財務分析フォームにはほぼ採用されていない。

与信管理の現場では、財務リスク把握の観点から「有利子負債構成比率」が頻繁に活用される。エム・シーネットワークスジャパンの場合、2022年4月期末は有利子負債がないため、同比率は0.0%で、一見すると優良企業に映る。ただ、前受金を他人資本と捉えて算出し直すと、142.1%と異常値をたたき出す。

TSRが保有する財務データから2022年に倒産した企業を分析すると、倒産直前期の有利子負債構成比率(平均)は69.3%だった。生存企業の平均は29.8%だ。同社の資金繰りの異常性がはっきりする。

この会社の成長は、顧客からの前受金が支えていた。前金方式では、顧客が右肩上がりに増え続ける間は、集めた前金を人件費や出店費用などの設備投資に充てることができる。だが、ひとたび顧客が減少に転じると、一気に資金繰りに狂いが生じる。今回の結末は、ビジネスモデルを選択して拡大路線を採った段階で、運命づけられていたともいえる。

「銀座カラー」の信用調査報告書

こうした点を踏まえ、エム・シーネットワークスジャパンのTSR REPORT(信用調査報告書)には何が書かれていたのかを検証したい。

今年9月に作成されたTSR REPORTによると、「企業診断(評点)」は44点と格付けされ、与信の目安とされる50点を大きく下回っている。「評点推移」は2021年9月以降、7回に渡って評点が更新されている。評点は信用調査ごとに更新されるが、通常は年に1回、決算確定後に見直されるケースが多い。TSRへの頻繁な調査依頼は取引先の警戒感の高さを物語る。

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