パチンコ業界に異色の「増資ラッシュ」到来の深層 株価は大幅下落、業績絶好調のさなかになぜ?
先陣を切った藤商事は東証スタンダード上場で、「リング」や「地獄少女」などホラー・美少女系のタイトルに強い遊技機の中堅メーカーだ。近年は遊技機に対する規制強化を受け、赤字に転落する年も珍しくなく、新規事業のスマホゲーム開発から撤退を強いられるほど苦戦していた。
しかし、ライトノベル発の大ヒット作である「とある魔術の禁書目録」シリーズの版権を獲得し、規制緩和やスマスロの登場といった追い風が吹いた結果、足元で業績はV字回復している。2024年3月期の業績は、売上高420億円(前期比20%増)、営業利益50億円(同29%増)を見込む。
そんな藤商事が、なぜMSワラント発行に走ったのか。同社は適時開示の資料で、スマートパチンコなど新型遊技機の開発強化を目的に挙げている。それに向けて、約200億円の現預金では手元資金が十分でなかった、というのが表面上の説明だ。
創業家との間で合致した思惑
ここで矛盾が生じる。藤商事は今回のMSワラント発行と並行して、MSワラントで調達を予定する金額と同規模の自己株式を、創業家の松元一族から買い取るスキームを組んでいるのだ。株式価値の希薄化に配慮した仕組みとうたうが、ほぼ同額をキャッシュアウトしては、実質的な調達金額はゼロになってしまう。
透ける真の狙いが、株式の流動性向上だ。
藤商事は松元邦夫会長を筆頭に、創業家が議決権ベースで60%超の株式を握っていたオーナー企業だ。しかし一連の東証改革により、流通株式比率の引き上げが喫緊の課題となっていた。
東証は上場維持基準として、プライム市場で流通株式比率35%以上、藤商事が上場するスタンダード市場で同25%以上を求めている。
上場維持を確実なものとしつつ、機関投資家などの関心を引きたい非創業家の幹部と、中長期的に持ち株の価値を保ちたい創業家の利害が一致し、「オーナーの協力をもらって(保有株式を)出させる」(藤商事のIR担当者)今回のスキームが実現した。
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