肥満治療薬「美容目的で使う人」に生じる"その後" シワが増える「セマグルチド顔」が米国で問題に

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前述したセマグルチド(ウゴービ)は注射剤だが、リベルサスはセマグルチドの経口剤(飲み薬)だ。海外の臨床試験で、肥満症治療薬としても注射剤同様に有効なことがわかっている。

報道によると「自己使用目的であって転売目的ではない」というから、2人の研修医はダイエット目的に処方したのであろう。不正に薬を入手することも問題だが、筆者としては、このような使い方をお勧めできない。なぜなら、それは大した減量効果はない一方で、副作用が強く表れる可能性があるからだ。

ノボ・ノルディスク社が実施した臨床試験で安全性と有効性が証明されているのは、Body Mass Index(BMI)が30キログラム/平方メートル(以下略)以上、あるいはBMI27以上で、高血圧、高脂血症(脂質異常症)、睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患などの合併症を有する人たちだ。

研修医世代の若者にこのような持病があるとは考えにくく、また、BMI30の基準も満たしていないのではないだろうか。BMIが30以上というのは、身長が170センチの場合、体重が87キログラム以上となるからだ。

基準を満たさない人の使用リスク

先の基準を満たさない人に対しては、セマグルチドの安全性も有効性も証明されていない。むしろ、副作用のリスクが高い。

この問題については、肥満治療の先進国であるアメリカでは随分と議論されている。筆者が信頼しているアメリカ・ボストン在住の内科医、大西睦子医師が重視するのは、「急激なダイエットでは通常、脂肪よりも筋肉が減る」という点だ。

セマグルチドの先行研究で開示された結果を大西医師が分析したところ、減少した体重の約4割は除脂肪体重(主に筋肉)だったという。これは肥満症の患者の場合だ。肥満でない人に使用したら、脂肪がないぶんだけ、この分析結果より筋肉が減る可能性が高い。

筋肉量が減って、相対的に脂肪のウェイトが増す肥満を「サルコペニア肥満」と呼ぶ。

この状態は、通常の肥満より生活習慣病にかかりやすく、運動能力、特に歩行能力が低下することがわかっている。若年者はともかく、高齢者なら転倒し、寝たきりのリスクが高まる。

筆者は、サルコペニアになるくらいなら、筋力が維持された肥満のほうがいいと考えている。現在、サルコぺニア肥満は高齢者の間で問題になっているが、肥満ではない人がセマグルチドを使うと、若い人でもこのサルコペニア肥満になるおそれがあることを認識すべきである。

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