アニメ会社が「あの石油大国」でこぞって狙う金脈 サウジの「オイルマネー」に熱視線が集まる理由

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オイルマネーを元手に投資を惜しまないサウジは、日本のアニメ会社にとって魅力的な市場である一方、攻略するうえでの課題も多い。

2022年秋から2023年初にかけてサウジ政府が開催した大規模エンタメイベントにおいて、電通などによる共催で開かれた「ジャパンアニメタウン」。約30タイトルものアニメを楽しめる展示施設が目玉だったが、あるアニメ関係者によれば、スケジュール調整における商慣習の違いなどが原因で展示エリアの施工が間に合わないなど、現場では混乱が生じていたという。

IP・コンテンツ業界では、不完全な出来の展示品やグッズを出すことは御法度とされる。IP価値の毀損につながりかねず、出版社など権利元とのトラブルの原因にもなりやすいためだ。

電通によると、アニメエキスポやアニメタウンの今年度開催は見送る計画だ。電通の担当者は「2022年のイベントにおいて商慣習やスピード感が食い違う中で困難があったのは事実だが、イベントとしては成功に終わった。引き続きサウジとの向き合いを強化しながら、サウジ以外の途上国でも同様の取り組みを広げていきたい」と話す。

それでもサウジを無視できない理由

商慣習や文化の違いにおける苦労は、電通に限った話ではない。困難に直面しながらも、各社はサウジ事業を将来的に価値ある領域と認識しているようだ。

サウジアラビア統計局の国勢調査によれば、サウジアラビア人の63%が30歳未満で、中央年齢は29歳となっている。東映アニメーションの清水氏は「(サウジは)人口のほとんどがアニメのターゲット年齢層で、国のリーダーもアニメが大好きと言っている。これほど魅力的な地域はなく、チャレンジするしかない」と語る。

エイベックスは電通と同様、今春に現地でアニメイベント「アニメビレッジ」を開催した。近く設立される同社のサウジ現地法人で代表取締役を務める予定の大伴悌二郎氏は、「サウジ政府との直接的なパイプを持つ優位性を生かして、現地における日本エンタメのハブの役割を果たしたい」と意気込む。

日本アニメの世界市場規模

日本動画協会の「アニメ産業レポート2022」によれば、Netflixなどの配信プラットフォームの普及により、日本アニメの世界市場規模は海外をドライバーに急拡大している。

アニメプロデュース会社・アーチの平澤直代表は「国内市場には飽和感があり、海外で伸ばしていく必要がある。寡占傾向の強い配信プラットフォームのみに依存するのではなく、サウジなどさまざまなパートナーと組むことで作品の多様性も生まれる」と指摘する。

オイルマネーによって日本アニメはさらなる成長を遂げられるのか。いま各社が直面している苦労は、決して無駄ではないはずだ。

髙岡 健太 東洋経済 記者

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たかおか けんた / Kenta Takaoka

宮崎県出身。九州大学経済学部卒。在学中にドイツ・ホーエンハイム大学に留学。エンタメ業界担当。MMTなどマクロ経済に関心。

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