ジェネリック最大手「サワイ」、呆れた不正の実態 供給不足続くさなか、見過ごされた3度の合図

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安定性試験では、薬を保管する際の温度や湿度などに関する基準が2013年に厳格化されていた。これにより試験に不適合となる薬が増えたことも、現場がカプセルの詰め替えを継続した動機となったようだ。

一方、調査報告書は一連の不正は現場の認識の甘さが原因であるとして、「上層部が関与して組織的に行われた行為であったとまでは認められない」と結論づけている。報告書がいう“上層部”とは、本社の社長や会長、不正があった工場の責任役員や工場長などを指す。

組織的な不正だったか否かは、行政処分の重さにかかわってくる。厚生労働省は一般的に、「組織的な行為だったことや、健康被害があるような悪質な場合」について業務停止命令などの行政処分を下す。そうした事実が認められなければ、沢井製薬の不正に対しては行政指導にとどまる可能性もある。

現在、不正があった工場のある福岡県と、本社所在地である大阪府が調査を進めており、その結果次第で行政処分や指導の判断が下される。行政処分によって出荷停止となれば、後発薬の供給不足に拍車をかけることになりかねず、厚労省は難しい判断を迫られそうだ。

最大手のずさんな内情に広がる衝撃

仮に不正が現場の思い込みによるものだったとしても、沢井製薬の経営陣の責任は重い。医薬品の有効性や安全性の確保に関する法律(薬機法)では、製薬メーカーの製造販売業務を担う取締役は従業員に対し、法令遵守のための指針を示す義務を負うことが定められているからだ。

また、2010年に起きた不正では、工場長や本部は試験に合格しなかった薬が出たとの報告を受けていたとされる。にもかかわらず、その後の経過確認や対応を行わずに放置した理由についてもより詳しい検証が必要だろう。

沢井製薬は今後、社員の法令遵守意識を高めるための研修を行うほか、安定性試験の実施手順が承認書と齟齬がないか確認を徹底するという。薬の溶出性に懸念が生じた場合は、「製造のやり方から見直すか、代替できる薬があれば販売自体を中止する可能性もある」(同社広報)。

8年もの間、不正が常態化しながら上層部がそれを感知できなかった組織体制や、社員の法令遵守意識の低さを露呈した調査報告書は、業界関係者に衝撃を与えている。

沢井製薬は現時点で、テプレノンのように承認書と異なる検査方法が口伝されていたような事例はないとしている。ただ、ある後発薬メーカーの現役社員は「現場の思い込みだけのせい、というのはさすがに無理筋だ」と不信感を示す。後発薬メーカーの元社員は「誰がどう考えても、試験に合格しなかった薬を放置するのはおかしいと分かるはずだ。ガバナンスが利いていると思えない現場で、本当に他の薬は大丈夫なのだろうか、という心配が拭えない」と話す。

業界トップの会社で起きた不正の余波はどこまで広がるのか。予断を許さない状況が続いている。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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