JR九州「ひこぼしライン」には誰が乗っているのか 「日田彦山線BRT」、実際に乗車して確かめた

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添田から折り返したのは9時40分発「ひこぼし5号」。日中便なので、車庫から小型の電気バスが出てきた。ところが今度は逆に、小さい車両に満席近い人が乗った。年齢は高い。発車すると運転手は「12名様乗車」と、営業所に無線で伝えた。定員を大きく超えそうなほどに乗客がいると、ときに続行の手配をするようだ。

畑川(医院前)で、添田行きを降りた女性が乗ってきた。その次の変哲のない“バス停”駅の塚原で3人乗車、空席はリアシートに1人分だけとなる。すると歓遊舎ひこさんでご老人たち5人が下車、3人が乗車した。道の駅「歓遊舎ひこさん」は地元の食料品店の役目も果たしているらしく、多くは買い物に来た人々と知れた。

彦山でそれとなく山歩きスタイルの夫婦、深倉で杖の婦人が下車。その後サービス精神旺盛な運転手は、13人の乗客を相手に「お待ちかねの釈迦岳トンネルに入ります」と案内を始め、それを抜け出た筑前岩屋駅の先では「次のトンネルを抜けると、いちばん眺めのよいめがね橋を通過します」とも伝えた。そして橋の上を徐行運転した。添田からの人々は眼下を見下ろして口々に感嘆しており、BRT初乗り体験をしにきた1つのグループであるとわかった。

現在の日田彦山線BRTの利用の様子は、おおむねこのようなところだ。JR九州は9月28日、開業1カ月間(8月28日〜9月24日)の利用者数を約1万1400人と発表、1日平均は407人で、代行バス時代の6.7倍、鉄道時代の約3倍と伝えた。内訳は観光6割、4割が沿線住民とのことだが、私が同乗した沿線グループなどどちらに含まれるのだろう。純粋な日常利用となると高校生と高齢者の通院等に絞られてきて、鉄道時代から釈迦岳トンネルの前後で完全に分かれしまう。この間の往来は観光利用に頼るしかない。

東峰村は接続のデマンドタクシーも試行

10月1日までは開業記念で、東峰村によるめがね橋のライトアップも行われた。今後も土地の資源を活用したアイデアに期待したい。

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また、同村ではBRTへのアプローチ手段として、デマンドタクシーを試行している。事前予約制だが、村内のどこからでも無料で乗車できる。その効果が検証できたら、300円程度の有償で村内交通として定着させてゆきたいそうだ。一方、福岡県は官民連携で推進するMaaSの実証実験として、モバイル機器のアプリを利用した「BRTひこぼしライン1DAY満喫フリーチケット」を発売している。大人860円(小児430円)で、沿線の飲食店や物販店等での特典もつく。日田彦山線BRTは、鉄道に代わるローカル交通の1つの試金石として、当面は各種の話題を撒いてゆくことになろう。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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