バイデン政権は2021年8月にアメリカ軍のアフガニスタン撤退を完了し、同年末にイラク駐留軍の戦闘任務を終了させた。2022年に発表した国家安全保障戦略(NSS)からも、バイデン政権は対テロ戦争から「唯一の競争相手」として位置付ける中国との覇権争いに焦点をシフトしたことが明確であった。
そのため、バイデン政権は中東の安定を望んできた。
バイデン政権の外交政策の中核を担うジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は9月末、「中東地域は、過去20年で最も安定している」と語り、楽観的な見方を示したばかりであった。
しかし、イスラエル・ハマス紛争は今後、ますます中東地域の不安定化をもたらし、アメリカの中東に対する関与の拡大は必至だ。アジアに焦点をシフトしていたバイデン政権だが、少なくとも当面は中東情勢に対処しなければならなくなった。
最大のリスクは中東全域への飛び火
今日、バイデン政権が最も恐れるのが、中東地域で戦火が拡大することだ。イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザに侵攻すれば、レバノンを拠点とするシーア派組織ヒズボラが、イスラエルを北部から本格的に攻撃する可能性が高まる。ヒズボラはイスラエル全域を射程範囲とするミサイルを保有することからも、アメリカ政府はとくに警戒している。
イスラエルがヒズボラに応戦することで、ヒズボラの背後にいるイランも応戦するリスクがある。さらには、親イラン武装勢力のフーシ派などが、サウジアラビアをはじめとするペルシャ湾岸諸国・周辺国を攻撃するリスクなども懸念されている。
つまり、戦火はガザ・イスラエルに止まらず、中東全域に拡大するリスクを秘めている。
そのため、ワシントンでは今のうちに念のため、中東各国の駐在員などの国外退避計画を準備しておくべきといった議論も出てきている。仮に戦火が拡大した場合、フライト手配などがより困難となるリスクがあるというのだ。
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